表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歌うように。
225/369

225話

 なんだこの状況。呼ばれたにも関わらず、一向に音楽的な話すらしない。痺れを切らしたエデンはさっさと本題に切り出す。


《あんたもチェロかなんかやるのか?》


 覚えておいて損はない、ということはそういうことだろう。音楽以外に共通点はない。たぶん。


 チェロ。クラシック。そこでようやく脳が音楽に切り替わってきたブランシュ。一瞬口ごもる。


「私は……ヴァイオリンを」


《彼女が音を香水で表現できる子だ。以前話しただろ?》


 万聖節からフォーヴが帰国したあと、みなに報告した面白い少女。それが彼女だ、とここで明かす。


 しかし、期待されることもあまり好ましくないが、さらに今のブランシュ自身は。


「私は……」


 なにも見えてこない。違う人だ、と否定したくなる。違わないけど違う。


 目を大きくしてその記憶を思い出すエデン。多少ではあるが興味を持った。そんなヤツがいるのか、と。


《あんたか……その声色からして、スランプにでも陥ったか。諦めろ、そういう時は誰にでもある》


 分析結果。なんだ、普通の人間か、と安心もした。それもそうか。


 しかし思った以上にその言葉は弱るブランシュに突き刺さった。


「諦める……諦め……」


《諦めは別に、練習をやめてリフレッシュしろとか、音楽そのものを引退しろとかそういうのじゃない。俺の師は毎日毎日『諦めろ』と言われた。できないことは諦めろと》


 今できることを今できるように。本番になったら根性でプラス二割増、なんて色気は出すな。これまで培ってきた自分の最大値じゃない。『今の自分の最大値』。語るエデンは、偉そうだなとわかっている。憧れのリヒテルが聞いたらどう思うだろう。二割増せ、と言うのだろうか。


 熱いね。そういうのも好きだ。言いたいことは全て言ってもらったフォーヴ。付け足すくらいでちょうどいい。


《そうだね。上手く弾くんじゃない、上手く表現するんだ。今の自分を》


 似たようなことをヴィズも言っていた。上手く弾くより、長く弾き続けることを念頭に。自分に合う感性を探すのも大事。


《そういった意味では、曲を知るよりもまず自分を知ることだな。なにができて。なにができないか》


 そういえば普通科とか言っていた。音楽科でもないのなら、余計に片意地を張るものではないのに。さらにちょっとだけ、エデンはこのブランシュという少女の生態が気になる。


 とはいえ、説教じみた熱いことを言ってほしくてフォーヴは呼び出したわけではない。本番はここから。


《ま、お喋りはその辺にして。そろそろ弾こうか。我々のスケルツォ・タランテラ》


《なんでお前が仕切ってんだよ》


 グチグチと文句を言いつつも。なんやかんや前向きに演奏する空気を作られていることに、エデンの居心地は悪くない。時間無視で呼び出されても。弾ける喜びが勝つ。


 音が聴こえる。スピード感と歯切れのいい技巧。珍しいチェロによるスケルツォ・タランテラ。


「私は……音楽で、香水でなにを表現したいか……」


 出口の見えないトンネル。その一筋、あるかわからない光に向けて。ブランシュはもがく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ