223話
《だとしたら、彼は来ないだろうね。来るとしたらなぜだと思う?》
会話の主導権を握るフォーヴが、さらに難解な謎を提示。電波の先で笑っている。
余裕のないブランシュ。不満を覚えつつ奥歯を噛む。
「なにかフォーヴさんに逆らえない理由があるとか。秘密を握っていたり」
自分とニコルのように。だんだんその本人に思えてきた。いや、本人は意味なくまわりくどい話し方をする。そして最終的な答えを持っていないので、うやむやで終わらせる。
当然、そんなことはなくフォーヴは、ザラつきのない自分なりの考え方を持っている。
《なら、彼は秘密をバラさないでもらえる、という自分の利益のために来るわけだ。私のためじゃない》
人間とはそういうものだ。古来から変わらない。
「いやそもそも、そもそもが……」
その後に続く言葉をブランシュは見つけられないでいた。あれ? そうなの? 本当に? 本当?
《そのスケルツォ・タランテラを引き受けたのだって、友人へのプレゼントというよりも自分の喜びのためだろう? 他の人の喜ぶ顔が見たい、そういうことだ》
ひと呼吸置き、言い足りないフォーヴはそのまま続ける。
《例えばそのシシーさんが途中でも飽きたとしても、最後までやってくれたのなら『そうしないと彼女の気持ちが悪い』からだ。ね? 結局は自分の利益、欲望だろう?》
「いや、しかし……」
言いたいことはわかるものの……いや、そうなのか? 本当に。行ったり来たりするブランシュの脳はパンクしかけている。
たじろいでいる相手のことに気付きつつも、フォーヴは最後まで思いを伝えきることにした。
《幼稚園で物心がつく前に無理やりやらせている、というのとは違うんだ。自分の行動には責任を伴う。安請け合いはしないことだね。嫌になったのなら、途中でも断るべきなんだから。それがないということは、そういうことなんだよ》
なんだか、そうなのか……と言いくるめられているような。結局答えの出ないモヤモヤがブランシュを支配する。
「……」
そこへ先の発言によるとレッスン室にいるらしい、フォーヴの元に変化が。
《お、来たようだ。やぁ、エデン。それじゃよろしく》
《またかよ。なんで俺》
ルカルトワイネ、ピアノ専攻。エデンと呼ばれた男。口が悪くて性格も悪い、と悪評が広まっているが、ピアノの腕は本物という評価も同時に得ている。嫌々ながらもレッスン室へ。
また巻き込んでしまった。しかも男性。萎縮するブランシュ。
「あの……申し訳ありません……」




