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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歌うように。
221/369

221話

「……落ち着きましょう」


 電気を消してみる。もう夕方。日が暮れているので真っ暗。精神統一。余計なものは排除して。ただ真摯に音楽と。香水と。向き合うだけ。それだけで。いい。


《どうしたんだい? なにか悩みでも?》


 携帯のスピーカーからはフォーヴの声。充実しているのか、楽しげな声色。たんに音楽について話せるのが楽しい、というのもある。


 気づいたらブランシュは電話をしていた。ただただ、どうしようかと悩んでいた……みたい。みたい、というのは本当に無意識で、声が聞こえてから電話をかけていたことに気づいたほどに。


「……あ、いえ。なん、となく……」


 ハッとして、慌てて返す。本当は色々話したいのだが、なんと言っていいのかわからない。それに、誰かに伝わるという気もしない。それでも彼女は本気で取り合ってくれるだろう。だからこそ、時間を使わせては申し訳ない。そんなふうに後ろ向きに考えていた。


 少しの間、無言。まだ付き合い自体は短い。むしろ三日間一緒にいただけ。だが、それでも同じ音楽を志す者同士。辛い出来事は誰にでも平等。フォーヴはそう考える。


《そういう時はだいたいなにかある時だね。話してみてくれないか? 力になれるかは別として》


 シューマン、ではないな、と瞬時に悟った。そうであれば、音楽であればしっかりと伝えてくれるはず。そうでないなら、人間関係か……香水。そんなところだろう。


 ……そう言われると、友人として教えないわけにもいかない。ニコルやヴィズ達ではなく、ブランシュはなぜ彼女に相談しようと体が思ったのか。迷惑をかけづらいという理由かも知れない。ここにはいないから。いたら、心配をかけてしまう。


「……ありがとう、ございます。実は——」


 まだ自身でも把握しきれていないが、掻い摘んで話してみる。シシーのこと、スケルツォ・タランテラ、全く音から香りが作れないでいること。上手く伝えきれたかはわからない。最中も勝手に口から言葉が出ていったから。


 ふむ、と電波の先で思考するフォーヴ。


《なるほどね。今のままだと、手伝ってくれているシシーさんとやらにも申し訳が立たないね。留学は短期なんだろう?》


 むしろこの時期に珍しい。自分も行きたかった、と羨む。


「………はい。あと数日で」


 その貴重な時間を取ってしまっていることに、ブランシュとしてはありがたいが悩ましい。調子が良ければ前向きに捉えたいが、現在の状況がさらに引き立てる。


 他人の心が動くのかはわからない。自分の手の届く範囲から逸脱している。ならば自分のできることを。他人をどうこうできるなんて烏滸がましい。それなのに。自分はもっとできるはずだと、できるに決まっていると上を向いてしまう。

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