213話
またブランシュの黒髪に触れたシシーは、慈愛を持って約束する。
「気にしないでいい。だが力になりたいというのは本当だ。できる限りのことはさせてもらうよ」
それが自分への褒美にもなる。楽しいことに携われるという、最高の。
「……ありがとう、ございます」
全てが順調。にいきすぎているような、逆にブランシュは心が落ち着かない。返せるものが自身にはない。どうすれば。
そんなことはお構いなしにニコルは予想以上の大物が釣れたことを、今回の留学に感謝。どうしようかと悩んでいるよりまず行動。やはり大事。
「はー。理解力もあるし、色々と便利だね。今回は本当にブランシュの出番はなさそうだ」
取り越し苦労、とすでに終わった気でいる。誰かが弾いて。歌って。それを覚えてもらって。香水にする。美味しいところは全部かっさらう。
それとは対照的に、ブランシュはいまだに解決できない難問を突き詰めているような、沈んだ面持ち。
「……」
「ブランシュ?」
今日の夕飯について? 呑気にニコルは推測。
呼ばれてビクッとブランシュは反応した。
「……え? はい、なんでしょうか?」
輝きをなくしたような瞳。考えがまとまらない。どうしても、後ろ向きな答えしか出すことができない。
トーンダウンしつつもニコルは姉のテンションを上げに声をかける。
「今回は出番がなさそうだなって。よかったじゃん、ゆっくりと香水作りを楽しめて」
作って演奏して作って演奏してを繰り返している。ここいらで少しまったりとするのも悪くないんじゃない?
たしかにターンオーバーするならここ、なのかもしれない。強力な助っ人もいることだし。無理やりブランシュは笑顔を作る。
「そう……ですね」
「どしたん? やっぱ歌う?」
「歌いません」
ニコルの提案にはキッパリと。だが心に残る靄。それを晴らすことのできないブランシュは、大きく天井を仰いだ。




