表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歌うように。
211/369

211話

 ピタッと止まるとカルメンはもと来た道を戻る。


「ぶー」


 頬を膨らませる。が、そういえば話には聞いていたその選び方。見るチャンス。食い下がることもなくあっさりと元の位置へ戻り背筋を伸ばす。


 多少の余裕がブランシュにも帰ってきた。確実な足取りで階段を上る。


「すみません……シシーさんもこちらのほうが楽しんでいただけるかと」


 そして目の前に立たれたシシーはそこから推測する。香りを音に。決められた曲、ではないということは。


「へぇ……その時の感情によっても、香りから得られる曲が違う、ということかな? 面白いね」


 もうなにもかもバレているなら話は早い。ブランシュはケースを開き、その中から使い慣れたヴァイオリンを取り出す。


「その通りです。シシーさんの香水、その曲を弾きます」


 カシュメラン。そしてそれ以外にも感じた、甘く妖艶な。誘っておきながら「また今度」と、去った後に残り香だけがある、そんな小悪魔な。


 噂だけで済ませていたのはヴィズも一緒。その機会がなかったわけだが、ついにここで。


「これが本来のブランシュ。実際に見るのは初めてだわ」


 今までのように決まっていた曲を演奏するのとは違う、完全な無意識下で選曲される自由なスタイル。コンクールなどとは真逆な、あの子だけの。


「なるほど。はい、どうぞ」


 香水は時間と共に香りは変化する。今の自分は、彼女にはどう捉えられている? シシーは抱くようにして香りを提供する。


 密着されて困惑しつつもブランシュは感謝。


「……ありがとうございます」


 いきなりでドキドキする。きっと母校では王子様のような存在なのではないだろうか。そして香りに集中。


(……甘く芳醇なマルメロの香り。そして今の私の——)


 とろけるような目つきで見上げる。至近距離で目が合う。


「どう?」


 息がかかるほどの近さだが、それでもシシーの心臓は平常。まるで慣れているかのように。


 かたや慣れていないブランシュは焦りながら離れる。心拍数はハネ上がっているし、まともなメンタルではない。リセットの意味も込めて大きく息を吸い込み、構えをとると、シシーから耳のことを言われたことを思い出した。が、そのまま弾き始める。


 情感溢れる、まるで子守唄のような優しいメロディ。本来ピアノの伴奏とセットで演奏されることの多いこの曲。ピアニスト達はすぐに気づく。


 今はソロであることは重々承知だが、ヴィズの指が自然と動く。


(パラディス『シチリアーノ』。なんの香りなのかしらね。しかしそれにしても——)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ