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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歌うように。
205/369

205話

「……ヴィズ、上手いじゃん」


 ピアノの演奏を聴いたことはあったが、まさか歌えるとは。一番に拍手をしだしたのはニコル。自然と称えずにはいられなかった。


 その後、数瞬を置いて鳴る喝采の中、同様に驚嘆を持ってブランシュも目を丸くする。


「……はい、とても気持ちのこもった、素晴らしい歌だと思います」


 当然、本格的にやっているわけではないので粗はあるのだろう。だが、ピアノとの距離感などは声楽科の人達にも劣らない、専門的な強さがある。音をよく聴いている。


 口角を上げつつ、イリナは向き直る。


「……ま、こんなもんかな。簡単でしょ? ピアノ」


 その先には拍手を続けるドイツの超人。これくらいはやれるよね? そんな言葉が乗ってくる。


 最後にひとつ大きく手を叩いたシシーは、先ほどまでの九〇秒にも満たない、短い至福の時間を再度噛み締める。


「……なるほどね、いい曲だ。美しい。ありがとう」


「私のは参考にしないほうがいいわ。動画や声楽科の生徒に見本を見せてもらうほうが、身につくでしょう」


 歌い終わったヴィズはすぐに忘れて欲しいと願った。この場にいる全員に。


 しかしシシーは一歩近づき、褒め讃えることを惜しまない。


「そんなことはない。素敵だった。より俺の心に響いた、素晴らしい歌声だったよ」


 それは心からの。荒削りなところがあったとしても、シューマンの心境にはそのほうが近いのではないかとさえ。


 多少の恥ずかしさと同時に、真っ直ぐにそう言われるとヴィズも悪い気はしない。


「それはどうも」


「じゃ? やってみよっか」


 急かすようにイリナがイスをポンポンと優しく叩き、誘導する。次はあなたの番。


 そこにしばらく口を噤んでいたカルメンも、嗜めるように否定に入る。


「無理でしょ。初見だし。いくらなんでも期待しすぎ」


 ピアノ専攻であれば初見でも難しくはない曲。だが、これは歌曲。上手く弾くことよりも、曲自体の完成度が優先される。あえて崩すように。あえて乱すように。そういった工夫を素人が入れることなど、できるはずもない。


 そんなことはお構いなしに、シシーは静かにイスに座る。ピアノがよく似合う、まるで絵画の世界の住人のような神聖さ。


「ま、心踊るね。いい曲、いい演奏のあとだ。恥じないように頑張るよ」


 そして鍵盤に指を置く。チラッと八八の鍵盤を全て確認。そして心拍数そのままで最初の一音を奏でる。

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