201話
そこに。
「ここが音楽科のホールか。流石だね。ケーニギンクローネよりも大きくて立派だ」
ゆっくりと開くホールの扉。入り込んでくるのは、姉妹校の制服を身に纏った可憐な少女。階段を降りる足音にも品がある。
次に顔を覗かせるのは、香水とクラシックを結びつける少女ブランシュ。まだまだホールに入ることが慣れないでいる。
「あ……みなさん……」
そして日頃からお世話になっているピアニスト達を発見。安堵しつつも申し訳なさ。
そこに申し訳なさの欠片もなく勢いをつけて入ってくる少女、ニコルの姿も。
「おー、いるねぇ。練習熱心なことで。数名いないけど、まぁいいか」
ひとりで納得。そのままゆっくり恐る恐る進む姉の背中を押して、ピアノの元へ駆け寄る。ほら、さっさといったいった。
階段下までやってくる一行。ヴィズが見慣れない人物を視野に捉える。
「……ブランシュ。こちらの方は——」
「シシー・リーフェンシュタールだ。ケーニギンクローネから来た。数日だけど頼むよ。話には聞いてる」
流暢なフランス語。まるで何年も住んでいたかのような、淀みのない言葉でシシーは軽く挨拶。
そこに乱入するのはイリナ。初めて見た姉妹校の人物。それと制服。
「……ドイツ? てことは、声楽科の生徒、なのか?」
透明感のある声。たしかに歌は上手そうかもしれないけども。
軽やかにシシーは階段を上りつつ、その問いに答える。
「いや? 残念ながら普通科だ。歌曲を歌ったこともない。シューマンの名前は知っていたが『詩人の恋』という曲は初めて聞いた。期待に応えられるよう頑張るよ」
そして同じようにスポットライトを浴びる。彼女の煌びやかさをより引き立てるかのように。
「よろしく。カルメン・テシエ」
さらにそこに割り込むのはカルメン。先に右手を差し出し、握手の構え。なんとなく一番にしておこうという気になった。
にこやかにそれに応じるシシー。ガッチリと握る。
「カルメンさん。よろしく。綺麗な指だ」
その感想も伝える。それでいてしっかりとついた小指の筋肉。それは言わないでおいた。
渋々、という形ではあるがイリナもそれに続く。
「……イリナ・カスタ」
だが、なんだかソワソワと心が落ち着かない。というのも、全くの素人にブランシュが依頼しているという点。なんだか、優遇されているようでズルい。いや、ドイツ語の話者なら仕方ない、そう自身に言い聞かせる。
数テンポ待ってシシーは握手を返す。そして握った手を引き、顔を近づけてみる。
「よろしく。イリナさんは心の揺らぎが大きそうだ。最近、辛いことと嬉しいことが続いたのかな? なんにせよ、今は楽しそうでこっちも嬉しいね」
「は? なに? なんなの?」
いきなり。指摘されたことに心当たりのあるイリナではあるが、唐突すぎてケンカ腰になってしまう。同極の磁石のように、パッと距離を取る。




