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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歩くような速さで。
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2話

 調香師ギャスパー・タルマ。


 調香界のニコラ・テスラとも呼ばれるほどの香りの発明家であり、アナハイムで開催されたECSC、『香り文化への多大なる貢献賞』も受賞した、世界にわずか五百人程度しかいないと言われる調香師の頂点。


 美術館や映画の調香なども担当し、その名前は調香師という存在を知らなくても彼の名前は知っている、とまで言わしめるほど。


 そんな彼も晩年に差し掛かり、後身の育成に力を入れ始めたのが数年前。香りの専門学校『シャトーパルフューメ』を設立し、入学希望が殺到した。


 彼は心血を注いで見ることができる人数、ということで少数を希望し、倍率は四〇倍を超え、年齢層も十代から七○代までと幅広く、みな職業も様々で、大工もいれば学校の教師もいるという人気ぶり。


 二年間勉強することで卒業となるが、資格というものがない以上、開業も自由、どこか香水店で働くも自由、そのまま今の職業を続けて趣味として楽しむも自由である。ゆえに間口の広さとネームバリューから、倍率も高いのだ。


(まさか合格するなんて。夢でも見ているのでしょうか)


 香水の聖地グラースに住む少女、ブランシュにとって、ある意味ではエリート街道と言えなくもない。最高の場所で育ち、最高の講師に学ぶ。調香師でもここまで恵まれた人はいないだろう。事実、ギャスパーも元はパイロットを目指しており、その後、航空業界でそれなりの地位にいたらしいが、四〇を過ぎて突然調香に目覚めたという過去がある。


(もしかしたら、私もタルマ二世とか、調香界のキュリー夫人とか言われてしまうのでしょうか。まだ結婚の予定もありませんけど)


 そんなに欲の強くない子として育ってきたが、初めてギャスパーのような調香師としての名声が欲しいと思ってしまった。自分のブランドを立ち上げて、あ、場所はマレ地区なんかいいかもしれません、など未来のことを考える時間が至福の時であった。


 専門学校はパリ。さすがにグラースから通うのは無理があるため、後期中等教育にあたる一五歳からは寮のあるモンフェルナ学園に転入。そして学校終わりの夕方から専門学校で二年間、香りを学ぶ。そして開業し、故郷でまったりと調香しながら結婚して夫人になって、と想像していたその矢先。


『シャトーパルフューメ、海外展開。ギャスパー・タルマ氏、フィレンツェ、ミュンヘン、マンチェスター、マドリード校にそれぞれ二年に渡り技術指南』


 とニュースに流れた。


(……はい?)


 イタリア、ドイツ、イギリス、スペインの順番で新たなシャトーを創設し、それぞれ二年を目処に滞在し、海外にも後身を育てると明かした。つまり合計八年間はフランスから離れる。


 各地で教鞭を取りつつ、そこを拠点に世界各地で香りの仕事。卒業までの期間、ギャスパーはパリにはいない。代わりに彼の教えを一身に受けた講師達により、みっちりと手ほどきを受けるというスタイルに変更となった。


(えーと……はい?)


 もう学園への転入手続きは済ませ、寮に引っ越し済み。故郷の友人達とは涙の別れ。シャトーにも入学金は納入済みだが、場合によっては返金も受け付けるとのこと。悩んだ末に、ブランシュは辞退してしまった。他の合格者達は、九割がたはそのまま入学するらしい。


(もちろん他の講師の方々も素晴らしいのはわかっています。それでも、私はギャスパー氏に……こうなったらフィレンツェ校に入学すべきでしょうか)


 などと考えてしまうくらいに心酔してしまっている。ピアニストがアルゲリッチに、ボクサーがモハメド・アリに、バスケットボーラーがマイケル・ジョーダンに憧れるように。彼女にとって、ギャスパー・タルマは目指した先にいるべき人だった。

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

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