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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歌うように。
197/369

197話

 唇に触れてシシーはそれらを噛み締める。


「なるほど。そうきたか。俄然楽しみだね」


 そういうのもあるのか。世界は広い。


 あっさりと理解されたことに、安心しつつもニコルは疑問が浮かぶ。普通はすんなり進まないはず。


「……たまーにいるんだけどさ。なんでそう、飲み込みが早いのかな。聴覚と嗅覚が繋がっているって理解できなくない?」


 実物を見聞きするまでは。いまだに自分もよくわかっていないのに。


 だがシシーにとってはそこまで衝撃のあることではなかった。というのも。


「まぁ、不思議ではあるね。だが、嗅覚を違った形で表現できる人物。それに心当たりがある。ブランシュさんだけじゃないんだよ、そういう人間は。俺にはわからない世界だけどね」


「……!」


 にわかには信じられない事実。ブランシュも言葉を失う。自分以外にも……いる?


 先に声に出したのはニコル。唯一無二かつ使い道のほぼないであろう特技。それを持つ者。


「え、他にも? こんなぶっ飛んだヤツが?」


 これは僥倖なのか……? 協力してくれるならありがたい話だが……慎重に。


 シシーですら舌を巻く能力。それに比べたら自身は凡人、と言い切れる。


「あぁ。その子は音楽ではない。紅茶で表現できる。彼女の前では嘘をつくことができないんだ、嗅覚で全てバレるからね」


「こ、紅茶……?」


 全く想像の範囲外の選出に、ブランシュの表情が崩れる。そう考えたら、音にすることができる自分が一般人にさえ思える。それに嘘を判別する力もない。よくわからないが「負けた」と少し落胆。


 香りという、明確な答えがない世界。だが、心に刺さる解答。一度体験したことをシシーは思い出す。


「その人物に合った紅茶とお茶菓子を提供できる。可愛いだろう? 是非ともブランシュさんとの邂逅を見てみたいものだ」


 嗅覚を『音』にする能力と『紅茶とお茶菓子』にする能力。全く予想のつかない結果になるだろう。共通の認識とかあるのかな? どんな会話をするのだろうか、など興味はある。


 たぶん、手伝ってもらうことはないだろうが。一応、どこかで会った時のためにブランシュは聞きだす。


「その方のお名前は……」


 彼女の笑顔を思い浮かべたシシーは、その名を口にする。


「アニエルカ・スピラさん。今回の留学にも来ている。悩みがあるなら彼女に聞いてもらうといい。充実したリラックスタイムを提供してもらえるだろう」


 たっぷりの日差しを浴びて光合成のする植物のように、ニコニコと満面で喜色を表現する。パリに来てから楽しいことばかりだ。


 諦めのような。戸惑いのような。そんな濁った感情でニコルは声をかける。


「……あんたと同じような人間がいるなんてね。世界は広いというか」


 その先のブランシュも、驚きが勝る。もちろん、自分だけが特別な存在、と浮かれていたわけではない。ないが、同族に出会えたことにまだ歓喜という感情が追いついてこない。


「相手の感情を読み取るというのは自分にはできません。鋭さ……といいますか、感性でいえばその方のほうが上……だと思います。どういったものなのかよくわかりませんが……」


 紅茶。相手の香りを嗅いで、その方に合った紅茶とお茶菓子を用意する。ダメだ、全くもって想像もつかない。どういう感覚なのだろうか。俯く。


 そこへ顔をにゅっと滑り込ませ、シシーは「それよりも」と話を転換。


「早くやってみたいね。音楽科のホールかなにかなんだろ? 案内を頼むよ」


 燃え上がる。炎のような好奇心。

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