196話
さらに高まる緊張。風で周りの木々の木の葉が揺れる。それがブランシュの耳に嫌でも届く。
「……どうして嘘だ、と?」
怖い。この人が。まだ会って数分。どこまで裸にされる? 近づいてはいけない人間。それなのか?
「それも勘だよ。間違っていたらすまないね」
ただ、そういった勘はわりかし当たると自負しているシシー。外れたらそれはそれで、予想のつかないこと、と前向きに捉えている。メンタルは崩れない。
変な流れになってきた。よくないほう。断ち切るためにニコルは怯えるブランシュの肩を掴み、少し標的から距離を取る。
「……なぁ、私から誘っておいてなんだけど、あいつヤバそうじゃないか? なにもかもお見通し、って感じが」
そして耳打ち。視線を向けると、それに気づいて手を振ってくる危険人物。本来であれば、美人に挨拶をしてもらえるなんて嬉しいはずなのに。
本来ならば「そうしましょうッ!」と被せ気味に同意するはずのブランシュではあるが。
「たしかに怖いです、が、なぜだかわかりませんが……あの方がいると、心強いというか……全て上手くいきそうな……」
正しい言葉が見つからない。初めての感覚。自分の考えなど全く及ばないような。
言いたいことはニコルにもわからないではない。怖さは安心感ももたらしてくれる。不思議な感情だ。しかし。
「あんた性格変わってない? あー、なに? 美人だから? あんたもそういうあれ?」
やだねぇ、と呆れてみる。惑わされるようなヤツだったか。
急に真顔になったブランシュはキッパリと否定。
「違います。ニコルさんと一緒にしないでください」
美しく聡明で、実体の掴めない恐ろしさはある。そしてそれが魅力か、そう問われれば……そう、だとも思う。本当に、わからない人物。
「ところで」と、いつの間にか背後まで接近していたシシーは、カシュメランの甘い香りとともに最後の謎解き。
「気になるのは。クラシックを香水に、なんてどうするつもりだい? イメージで作るのかな?」
そこだけは予想がつかない。祖国の大先輩ベートーヴェンだったら、色々あって多少気落ちしそうな香りと想像。
言おうか迷う。言っていいものか。だがどうせ彼女にはバレる、というか勘付かれるだろう。口籠もりながらもブランシュは決断する。
「それは……あまり信じてもらえないかもしれませんが……」
「この子は。音楽を香水で表現することができるの。共感覚ってやつ」
その先はニコルが。全部押し付けるのはよくない。半分は自身が背負う。背負うって、なんだろう。変な感じだ。助けてもらいたいだけなのに。




