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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歌うように。
188/369

188話

「無理ね」


「無理だ」


「無理」


「無理……じゃないかな……」


「え? 無理」


《無理だろうね。あれはそういう曲だ。やってやれないことはないが、それはもうシューマンの意図から外れてしまう》


 学園のピアニスト五人、ついでに姉妹校のチェロ弾きにまで否定されたニコルは、自室の二段ベッドに腰掛けたまま憤慨する。彼女達への相談内容は『ヴァイオリンでもいけるかどうか』。見事全敗。


「あーッ! どいつもこいつも無理無理無理無理無理無理って! やってみなきゃわかんないだろーに! ねぇ、ブランシュッ!?」


 と、正面のイスに座った少女に同意を得ようとした。しかし。


「いや……無理、だと思います、はい……」


 言い終わりに、ブランシュと呼ばれた少女は湯気の立ち上るショコラショーを口にした。


「あんたまで……!」


 奥歯を噛み締めながら、ニコルは今まさに飛びかかろうかと準備を進める。ショコラショーは置いていけ。


 春の嵐のように荒れ狂うその気持ちは理解しつつも、どうしようもできないことはある。それがシューマン作曲『詩人の恋』。ブランシュの頭に浮かんでくるのはピアノとドイツリート。そこにヴァイオリンはない。


「この曲はピアノがあること前提の曲なんです。『歌唱部をオブリガートにもつピアノ曲』とも言われています。そもそも、歌曲でヴァイオリンはちょっと……」


「オブリガートォ?」


 いつものように、全く知らない単語にニコルは舌を出して辟易。無理を通すのが我々。我々、というかブランシュ。


 オブリガートとはいわゆる副旋律のこと。主旋律があるにも関わらず、自身も旋律を奏でるように主役となることでもある。主人公が二人いる、といえばわかりやすいか。


「ピアノと共に競い合うように歌うことが前提、と言いますか。少なくとも私は、この曲でピアノと歌の組み合わせ以外は、聴いたことがありません」


 だってそういう曲だし。そう付け加えるとまた強襲される気配を察したブランシュは、静かに言葉を終える。


 たとえどんな理由であっても。他力本願で全て終えるつもりのニコルにとっては良くない兆候。ドイツの歌? ピアノ専用? 抜け道を模索する。


「じゃあどうすんの? 今回はお休み?」


 それはない、と断言していい。なぜなら姉は香水を通じてギャスパー・タルマに近づこうとしているのだから。課題を出されて「出来ませんでした」と諦めることはない。はず。


 クラシック曲を香水に。香水をクラシック曲に。稀有な能力を持つブランシュではあるが、この曲に関してだけはヴァイオリンで奏でることはできない。となるとできることは。


「……歌曲を聴いて作ります……」


 しかない。それしか方法は思いつかない。

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