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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
重々しく。
184/369

184話

(重い……軽やかで滑らかなステップなのに、夜の秘密を知ってしまったようで……胸が苦しい……)


 手にしたアレンジメントを落としそうになりながらも、ベルは目を離せない。滑稽で楽しそうで、でもどこか重力が倍で落ちてくるような。気温が下がった……? 実は我々に気づいているかのように、骸骨はケタケタと笑う。


 また交互に身を預け合いながら、曲は次のステージへ。再度、感情の昂りを表現するかのように、ヴァイオリンは激しさを増す。骸骨達。骨の音はさらに響き渡り、ひと時の幸福を感じ取る。


(アンリ・カザルスの詩では、アイリッシュダンスの一種、ジグを踊るそうですが、メトロでの演奏はここに繋がっているんですね……)


 先日はフィドルとして。今はヴァイオリンとしてアイリッシュトラッドに触れるブランシュ。どこまでがニコルの予定通りなのか。全く、フォーヴさんはなんてことを。


 そしてピアノのソロ。ヴァイオリンはピチカートで優しく添える。不気味な音色が、どこか恐ろしさを内包しているかのように響く。


(今ならわかる。それぞれに感情があって、同じ音はひとつとしてない。千回弾けば、千人分の骸骨が奏でられる)


 より意識するためのフォルテピアノ。たしかに、モダンピアノでは『響きすぎる』ゆえに、イリナは多少曖昧になっていたことは否定できない。だがフォルテピアノは鍵盤の浅さと木特有の音質。曖昧にしてしまうとバランスが崩壊する。


 ならば常に意識し続けること。真摯に曲に向き合い、良くも悪くも感情を揺さぶるような。聴衆がなんとなくで拍手するような演奏はしない。


 細かな一音一音から、ブランシュにもそれが伝わる。全てからエネルギーが迸る。映像がより、くっきりと見える。そして、それと同時に驚愕すべき点。


(おそらく……これは昨日とピアノの調律を変えていますね。一般的な平均律ではなく、詳しくはわかりませんが、より古典的な……!)


 自身のストラディバリウスに寄り添ってくる音。弾けば弾くほどに重なり、一体感が増す。ストラディバリウスの魔法の音を聴き、即座に修正してみせる技量。サロメに対し、冷や汗が流れる。フォルテピアノはより調律がシビアだと聞いたことがあるが、今この瞬間に合わせてある。


 そしてそれはイリナにも感じ取れること。弾いた際のレスポンスが絶妙。軽すぎず適度な重さを持ってフィットする。ゆえにレガート、ノンレガートが心地よい。表現力がより繊細に浮き出る。


(いやマジで、なんなんだよ。ブランシュといい、サロメといい……)


 だが不思議と高揚感が勝つ。思った通りに曲が奏でられる。骸骨の手触り、輪郭がはっきりと写し出せる。

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