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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
重々しく。
183/369

183話

 ヴァイオリンからゆったりと始まる。右手では弓を弾きながら、左手では一二回のピッチカート。最後の一回のみ、ほんの少しだけ強めに垂直にバチっと弦を弾く。いわゆるバルトークピッチカート。譜面にはない。思うままにブランシュは変化をつけた。


 午前〇時。死神が現れたことを、ピアノが告げる。怪しく低音を響かせながら、少しずつ近づいてくる。


(真夜中の墓場。静まり返りつつも、湧き上がるような悦び。ピアノでありフォルテ。譜面にはそんなこと書いていないけど)


 微細に強さを変えるイリナ。フォルテピアノであることも影響し、より慎重に。だが自信を持って。今までにはなかった感覚。サン=サーンスの想いを自分なりに解釈。


 この曲では、ヴァイオリンは普通とは違う調弦を行わなければならない。通常、隣り合う弦と弦は完全五度となっている。そこで第一弦を半音下げると、減五度となり、これはヨーロッパでは『悪魔の音程』と呼ばれている。死神と悪魔の共演。


(怪しく、それでいて妖しく。人々が恐怖にも魅力を感じるように。ハロウィンの夜が目を覚ます)


 不協和音が鳴り響く。冒頭からブランシュによるヴァイオリンのソロ。不気味だが、始まりを告げるかのように助走をつけ、そして……爆ぜる。そして引き続き、踊り始めた骸骨達を導く、高らかに奏でる。まるで操られているかのようにカタカタと骨の音を鳴らしながら、墓場というステージでダンス。


 そしてピアノがメインとなり、ヴァイオリンは伴奏へ。滑らかに引き継ぎ、揺れ動きながらピアノが様々な顔を見せる。軽やかに踊るモノ、大袈裟にハメを外すモノ、少し引っ込み思案に踊るモノ。繊細なそのタッチは、モダンピアノよりもさらに高度な技術を要求されるが、イリナは冴え渡るように軽やかに指を走らせる。


(スランプとは? って聞き返したくなる演奏ね。弾けない人間に対して、難易度を落とすのではなく、むしろ上げてくるとは。こんなやり方があるなんて……)


 イスに腰掛けて寝ようとしているサロメを、ヴィズは一瞥する。少なくとも、この少女はイリナの演奏からなにかに気づいたということ。ハイフェッツ症候群の治療としては随分荒々しいが、どうやら功を奏している。


 そしてまたヴァイオリンがメインとなる。風が吹き荒れ、骸骨の死装束がはためく。ライムの木々が揺れる。ブランシュが、香りに身を任せる。


 闇を切り裂く花——キュベブ。


 闇を照らす魅惑の果実——カランボラ。


 そして、闇からの再生——サイプレス。


 混じり合った三種の香り。月明かりのもとで蘇る死者の舞踏会。音に襲われる聴衆達は、招待された墓場というダンスホールでの宴を見守る。

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