表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
重々しく。
180/369

180話

「どういうこと?」


 二人だけで通じ合ったことに納得がいかず、イリナが説明を要求する。一緒に弾くのは自分なのに。


 当然の問いかけに、ブランシュは解釈を説明。少なくとも彼女には伝えねば、とは考えていた。


「精神的な部分ではありますが……骸骨、というのは不完全な状態だと思うんです。血肉を失い、そんな状態で踏むステップ。どこかぎこちなさを感じて」


 ふむ、とルノーもそれには納得の様子。


「言いたいことはわかるね。オーケストラ版でも、骨がカタカタと鳴る音を木琴で表現しているくらいだ。人間とは違う」


 この曲は珍しいことに、本来は木琴を使う曲となっている。曲の途中、それを表現しているのであろう箇所が出てくる。つまり、サン=サーンスとしても、上手いダンスというものを要求はしていないはず。


「となると、完全に弾けてしまうのは違う、ってこと?」


 窮屈さのようなものをあえて感じさせる演奏。こんなのコンクールではできない。イリナは少し、ワクワクしてきた。その時しかできない演奏。


「完全……というほど弾けてはいないのですが、この曲に関してだけは、滑らかさよりも硬さや歪さ、そういったものが合っている気がしたんです。なので……お借りしました」


 謙遜しつつ、ブランシュの話せる事の経緯はこれで全て。自分なりに考えた結果。


 だがそれ以前に大きな疑問が。そこに食いついたのはイリナ。


「いや、それで借りれるって……あんた何者? 誰から借りた?」


 そもそも、ストラディバリウスをポンっと貸してくれるような後援者。普通いない。


 当然、言えるはずもないブランシュは言葉を濁す。そもそもが香水を作るという目的が、その人のためでもある。


「……それは……ですね……」


「はいはい。誰しも隠しておきたいこと、ひとつやふたつあるからね。聞くだけ野暮」


 空気を読んでルノーが割り込む。追求するのは可哀想。というか、今から一緒に演奏するというのに大丈夫か?


 他人が責められているのをもっと見ていたかったサロメは、文句を言って不貞腐れる。


「なーんか納得いかないわね」


 少し気になる。ストラディバリウスは現在の行方がわからないものも多い、と聞いたことがあった。その『シュライバー』とやらは、もしそうだとしたら後援者はどうやって手に入れた? 考えても答えは出ない。


 三人ともの気持ちがわかるルノーは、強引に話を締めくくる。


「大人になれば、納得いかなくても納得いったフリをするもんだ」


 そうやって大人になる。サロメはしばらく無理そうだけど。納得いかないと、途中で投げ出して帰りかねない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ