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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
重々しく。
178/369

178話

 それをなぜか挑発と受け取ったサロメは、職権を濫用する。


「あん? 文句あんの? ホールのピアノ調律、ガタガタにするわよ」


 それはいい、と自画自賛。なんだったらハンマーを鋭く仕上げて、キンキンとした音にしちゃおう。


 なぜかケンカ腰の少女に若干身構えるヴィズ。


「ない、けど……」


 油断ならない。なにか今後いじられるかもしれない、と一応警戒。


 切り替え、澄ました顔でサロメは問いかける。


「サン=サーンス『死の舞踏』、あんた達ならどう弾く?」


 演奏にはそれぞれのピアニストの個性が出る。より明るく弾く者もいれば、おどろおどろしさを全面に出して、じっとりとした恐怖を感じさせる者も。


 それにはブリジットが答える。サロメとは以前に調律してもらって以来の仲。唯一知っている存在。


「独奏か伴奏かでも違うけど、ワルツだから。不気味さの中にもリズミカル、奇妙な魅力が出るように、かな」


 舞曲。ならそれを活かさない手はない。聴いた人がイメージできるように。


「まぁ、だいたいそんな感じでしょうね。フォルテピアノなら?」


 そのままサロメは質問を追加して返す。ピアノの違いをどう表現するか。


「……より軽やかなダンスステップ?」


 自信なさそうにブリジットが窺う。軽やかさが売りのフォルテピアノ。そちらに傾倒してしまったほうが、いっそ中途半端にならずに済む。


 それには教科書通りだがサロメも同調。柔らかい音で恐怖感を演出するよりかは、いっそ楽しくしてしまえ。そちらのほうが弾きやすい。強調とのギャップもあるため、むしろそうすることで内包する恐怖感の演出もできるだろう。


「かもね。ま、あの子がどう表現するか」


 今日の調律は少し特別。さて、どう活かしてくれるのか。


 そこに集中力を増したブランシュとイリナが入室してくる。緊張とリラックスが程よく混じり合い、いい雰囲気に覆われている。


 少し早足気味にイスに座るイリナ。いつも座っているモダンピアノではなく、その横の華奢なフォルテピアノ。外の景色を見る。いつもの中庭が見える窓。不思議と落ち着く。コンクールではない。ただの友人を呼んでの演奏。無音の中、そんなことを考える。


「お待たせしました。ではお願いいたします」


 床に置いたケースからヴァイオリンを取り出す。たおやかな指に吸い付くように、ブレない姿勢の少女に楽器が収まる。


 そこでカルメンがひとつの違和感に気づく。


「……ブランシュのヴァイオリン、いつもと違う?」


 ヴァイオリンは似たような色合いのものが多いため、気のせいかとも思ったが、そこに目がいく。まじまじと見たことはなかったが、他の四人にも意見を求めるように視線を移す。


 言われてヴィズも注視すると、そんな気がしてきた。 


「たしかに。あの子が大事にしていたものとは——」


「ストラディバリウス」


 ドカっとイスに座ったサロメは足を組む。背もたれに寄りかかると、首を回した。


 ……聞こえた単語が突飛すぎたため、四人はポカン、と数秒止まる。


「……はい?」


 代表してベルが疑問符を言葉にする。ストラディ……バリ、ウス……?


「ストラディバリウス・シュライバー。あの子のヴァイオリンよ」


 もう一度、つまらなそうにサロメは口にした。

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