表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
重々しく。
162/369

162話

「とか言って、面倒見がいいんだよねぇ。困ってる人をほっとけない」


 口の悪さは勘弁してもらいたいが、真剣な者に対しては真摯に向き合っていることを、ルノーは知っている。どうせ調律師の範疇じゃないとか思ってるだろうけど。


「あー、うっさうっさ」


 社長の発言を手で払いのけるサロメ。まぁ、やる気がないよりは、あるやつのほうが見込みはある。やれることはやってやる。


 大枠が決まったところでルノーが、パンッ、と大きく手を叩く。

 

「で、どうすんの? 私がやることなんかある?」


 ここから先はフォローしかできない。やり方は任せるが、可能かの判断もしなければならない。社長の仕事。


 返事はすぐにせず、目を閉じて瞑想するように深く考え込むサロメ。先ほどの演奏を思い出す。不調の原因。精神面ではなく、違う切り口から探るとしたら。


「……ひとつ、ここに運んでほしいピアノがある。その許可を取って」


 今のままではピアノを弾くことはできない。そんな簡単に弾けるようになるわけがない。だからこその奥の手。


 不思議そうに首を傾げるルノー。


「ピアノ? ここにないメーカー?」


 ここにはそれぞれのレッスン室やアンサンブル室に、グランドピアノが置いてある。ホールにはスタインウェイも。一体なにをするつもりだろう?


 すでにサロメにとっての調律は始まっている。その条件に当てはまるピアノはひとつ。が、声を窄めてルノーに伝える。


「……グレーバーの一八二〇……」


「はぁッ!?」


 今日一番の大きな声でルノーは動揺した。ガタガタと震え、聞かなかったことにしようとしている。


「……?」


 なんの話をしている……? イリナは首を傾げて様子を見る。


「借りてきて……くださいな」


 かなり無理を言っていることがサロメにもわかっているのか、先ほどまでの強気がどこかへ消え失せた。チラチラと、頭を抱える社長を覗き見る。


「そんなにレアなものなのか……?」


 自分のために……? だとしたら、イリナはやめてくれ、と言いたい。が、もし。それでまた輝けるなら。もし。あの場所に戻れるなら。


 唇を噛みながらルノーは問いに答える。


「レア……というか、所有者のいるものなんだ。売り物じゃない。それにこれは——」


「お願いしますッ!」


 イスから立ち上がり、ルノーの服にしがみつくイリナ。最後に垂れてきた蜘蛛の糸。難しいことなのだろう。無茶なことなのだろう。だけど、それでも……!


「……イリナさん……」


 その引く力の弱さに、ルノーは顔を歪める。もしも不可能だと言われたら。きっと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ