15話
「……ちょっとひくわ……とりあえず、じいさんももう年だからさ、若い子の閃きみたいなものが欲しいんだって。自分とは違うアプローチは勉強になるとかなんとか。だから作って持ってきて欲しいって」
自分の力でなんとかしなさいよ、と、腕組みしてニコルは文句を言う。しかも、本来はもらえる側だったはずなのに、なぜかこんなことに。
話の内容と、不思議な形のアトマイザー。疑いつつもブランシュは考えが揺らぐ。
(もしかして……本当にお孫さんなんでしょうか……? いや、まだわかりません。ここまで話を作ってきた可能性があります。なんせ、呼吸をするように嘘を言う人ですから……!)
考えをまとめつつ、ブランシュはニコルのほうを一瞥する。まだなにか文句を言っているようだ。
「そんで、そこから得たヒントだったりで、新作一○本作るそうなのよ。あ、これ秘密にしといてね」
今更秘密と言われても、とブランシュは困惑する。もちろん誰か他の人に言うつもりはないが、だからといってなにもせず指をくわえて待つというのもできない。嘘のような気もするし、本当だと信じたい気持ちもある。
「そのうちのひとつがブラームス……ということですか……?」
それならば、と、今の自分にできることをやるしかない。整理すると、まず一本目は『雨の歌』をテーマにした香りの香水だということ。そして、若い子のインスピレーションを取り入れつつ、ギャスパー氏は自身の経験と掛け合わせてまた進化していくということ。香りは言葉の壁のない、世界共通だ。ここから全世界に広がり、また調香は深化していくことだろう。
「ブラームスだかシュガーレスだか知らないけど、そういうわけね。全く、クラシックなんてこっちはわかるかっての」
ギャスパー氏はテストを行う人間を間違えたのでは、とブランシュは訝しんだ。普通に考えて、この女性は今回のテーマについて思考を巡らせるのには向いていないだろう。『食』とか『罪』とか、そっちの方がよかったのでは。
(しかし、これは大スクープなのではないでしょうか……! 次のテーマに関しては色々とネット上で議論になっていました。『詩』だとか『惑星』だとかある中で『クラシック』……これには色々な情報筋もあります、確定とみて間違いないのでは……!)
さらに冷蔵庫を開けてなにか食べようとしているニコルを無視して、心臓の鼓動が速くなっていることを感じたブランシュは、少し笑みを浮かべた。しかし、すぐに気を取り直す。
「しかし、一五の誕生日の香水とどういう関係が? いただいたわけではなく、逆にギャスパー氏にお渡しするのですか?」
問題はそこだった。フランスの習慣とは少し違う、調香師の家系には特殊な習わしがあるのだろうか。
あぁそれは、と冷凍庫から手作りのアイスを取り出しながら、ニコルは口を開く。
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