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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
重々しく。
149/369

149話

「いやー、焦った焦った。逆にハマりそうだわ、このスリル」


「……もう二度とやりません」


 息を切らしてニコルとブランシュは階段を駆け上がり、たどり着いたのはメトロの入り口。


 結局、あのあと騒ぎが大きくなりすぎたため、交通局員が確認に来たところで散開。人の群れを掻き分けつつ、聴衆達の手助けもあり、なんとか外へ逃げることはできた。サンドリーヌ達からは「またここらへんで!」と再会を誓ってドタバタと別れた。逃げ切れただろうか。


「なんでよ。少し儲かったんだからいいじゃん。いやー、しかしやり慣れてるヤツらは早いね。気づいたらもう楽器担いでるんだもん」


 ただただニコルは感心。流れるようなチームワークで遥か彼方へ。その際に適当に分け前をいただいた。ディナー代くらいは余裕である。


 逆にブランシュは浮かない顔。俯き、整えた息でひとつの可能性を上げる。


「……逆効果だったかもしれませんよ」


「ん? なんの話?」


 混雑する、ピンコロ石の敷かれたパリの道を歩きながら、お金を数えるニコル。六割は自分の分け前。


 ブランシュは「はぁ……」と長いため息。


「イリナさんですよ。いたの気づいてましたよ」


 聴衆で混雑する前にまわりを見渡した時、少し離れたところから不自然にバンドを見つめる視線。私服でフードを深く被ってはいたが、自身は警戒していたのですぐにわかった。


 だが、あくまで偶然を装うニコル。


「えぇー? 本当に? 夕飯でも買いに来たのかな?」


 それより新作のショコラとか買いたい。お菓子。


「白々しい……」


 眉根を寄せて弱々しく睨むブランシュは、顔を背けて一歩先を歩く。どこまでが予定通りで、どこからがぶっつけだったのか。


「で、外で弾いてみてどうだった? やっぱりホールがいい?」


 その背中に語りかけるニコル。


 うまいこと手のひらで転がされていることは、ブランシュにもわかる。悔しいけど楽しい。


「……まぁ、たまには外も。ですが、今回のようなことはなしです。毎度逃げたくないです」


 それも本音。


「はいはい。フィドルってのもなかなかいいもんなんじゃない? いつもと違って」


 ヴァイオリンとたしかに違う、同じ楽器。踊れるし、ニコルは好き。クラシックもいいけど、それぞれいいところがある。


「そう、ですね。タイタニックの気分を味わえたのは、貴重かもしれません……逃げるところまで含めて」


 再度、ジトっとした目つきになるブランシュ。だが、すぐに笑みを浮かべた。ローズの気分。

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