141話
そこへブランシュが追加の補足。
「持ち方なんかもクラシックは暗黙の了解のように型がありますが、フィドルは低く持ったり、弓の持ち方も個性が出たりします。ヴァイオリンは歌う、フィドルは踊る、とも言われますね。同じようですが、違う部分もある、くらいですね」
さらに言えばチューニングも若干違う。ヴァイオリン奏者がフィドルを試弾すると、弦を切ってしまうことが多々あるぐらいだ。
「へぇ……私はサンドリーヌ・ブロクディス。よし、じゃあやろうか。『ジョン・ライアンズ・ポルカ』、いける?」
若いのにしっかりと勉強している、と感心するサンドリーヌ。こういう飛び入り参加があるのも、大道芸の面白いところ。腕前は二の次。楽しいかどうか。
歓迎されたブランシュだが、外でも弾ける喜びでケースを開こうとして、戸惑い、そして……やめてしまう。迎え入れてくれたことに感謝しつつも、息が苦しい。本当のことを伝えねば。
「……私は、ブランシュ・カローといいます……ですがすみません。その前に、私は許可証を持っていませんので、申し訳ありませんが——」
「大丈夫、俺達も持っていない。来たら逃げるよ」
そう誇らしげに言い放ったのは、ブズーキ担当の男性ティロ・ジューレ。洋梨を半分に割った、と言われる形の、ギターのような弦楽器。抱えて走るのはあまり邪魔にならない。満面の笑みもセット。
「……」
達、ということは全員……? そのままの体勢で数秒間フリーズするブランシュ。ニコルと同じ考えの人しかいない。
交通局員が来た際の逃げる方向を決めつつ、ティンホイッスル担当のアンソニー・セギルは、二人になったヴァイオリンの役割も分担する。
「じゃ、メインとセカンドはどうする? せっかくだしメインやる?」
彼らは同じ大学で学んだのち、それぞれ就職をしたが、こうしてたまに集まっては音楽を楽しむ。若干の犯罪行為も混じってはいるが、オーディションに落ちたのだからこうするしかない。さらに他にも、ボドラン担当のリュカ・マニャンという人物がいるそうだが、今日は仕事でお休み。
「……はい」
ブランシュも学園の生徒であることを明かし、多少の情報交換をしたところで、準備は完了。脳内で曲を鳴らす。
お膳立てをしつつも、脈打つ心臓を押さえるニコル。ダメだったらどうしよう、という考えは今降りてきた。結果オーライ。
「なはは。ノリのいい人達でよかったねぇ」
屋内で外よりマシとはいえ、肌寒い空気にも関わらず冷や汗が流れ落ちてきた。せっかくあの子を呼んだのに。




