140話
それにはニコルもすぐさま顔を見合わせる。
「おっ! ヴァイオリンだよね? この曲」
明るくハジけるようなヴァイオリンの音。メトロタイルに反響してかなり先まで音が届いている。このまま通路を抜ければ、他のヴァイオリンに出会える。腕の良し悪しは当然わからないが、とりあえずこころなしか歩く速度が上がる。
そのスピードになんとかついていくブランシュだが、音の特徴、そして他の楽器から違う結論に達していた。
「……これは、ヴァイオリンというより」
同じだが同じじゃない。違うが違わないあの楽器。すれ違う人々の波を掻き分ける。この音楽。自分の奏でる音楽とは違う種類のもの。だけど。目を閉じて見えるものはハイランドの山々。
壁には広告だらけの連絡通路を抜けると、コンコースに出る。一気に天井が高くなり、シャンデリアが明るさを増す。音楽をやっているとそこに人だかりはできてくる。ガヤガヤと少し騒がしいが支障はない程度。
一曲終えたところだろうか、通路を抜けてすぐ左、壁に鎮座する三人組の楽団は談笑し、小休止中。シルクハットに少しのユーロ札と硬貨が入っている。先ほど聴こえた者達と読み、声をかけたのはニコル。
「この子混ぜてもらえる? ヴァイオリン。いけるよね?」
「ちょ、ちょっとニコルさん……!」
問答無用で一緒に遊ぼうと持ちかける彼女だが、当然やるのはブランシュ。
少しキョトンとした一行だったが、乱入はもちろんオッケー。快く、弦楽器をもった男が承認する。が。
「いけるけど、我々の場合だとヴァイオリンじゃなくてフィドルだよ。やれるかい?」
と、ヴァイオリンを持った若い女性に促すと、その女性も少し前に楽器を持ち出して見せる。
ポカン、とそのやり取りを認識するニコル。え、ヴァイオリンじゃない?
「なにそれ。違う楽器? 見た目は一緒な気がするけど」
ブランシュがいつも弾いているものを思い出しながら比較するが、たしかによく見ると色合いが違うような……いや、一緒かなぁ……。
弾く少女と、推薦する少女。不思議な組み合わせに、女性の声も訝しむ色が見える。
「知らないのかい? 同じ楽器でも、弾く曲によってヴァイオリンは名前が変わるんだ。色々あるけど、クラシックとそれ以外、で分けるのが一般的かな」
その他、アメリカのカントリーやオールドタイプ、スコティッシュなどを演奏する時もフィドルとなる。同じであり、同じではない。明確ではないが違いはたしかに存在する。




