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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
歩くような速さで。
14/369

14話

 ニコルはジャラジャラとポケットからさらに取り出す。ガラスの色が若干違う。最初に手渡されたものも、よく見ると薄い桃色をしているようだ。


「そ。で、問題がソレ」


 ブランシュの手のひらの紙を指差し、なぜかニコルは不満顔をしている。


 おそるおそるブランシュは四つ折りにされた紙を開いてみると、そこには文字が記されていた。


「えーと……『ヴァイオリンソナタ 第一番 ト長調 雨の歌』……? ブラームスですか?」

 

 と、ニコルに聞き返すが、「ん?」という間の抜けた顔で解答を表現する。勝手に出したイスをグラグラとさせて、暇を持て余しているかのようだ。


「そうなの? 私、クラシックよくわかんないから。まぁ、そういうことなのよ」


 ブランシュの肩をポン、っと叩きながら、バトンタッチするかのようにニコルは頷く。私の役目は終わった、とばかりに、折りたたみのテーブルとイスをもうひとつ出す。ポトフをレンジから取り出し食べる。うん、美味い。学食よりこっちでよかったかもしれない。座りなよ、とブランシュに着席を促す。


「いや、全然わかりません……アトマイザーとブラームスと、どういう関係が?」


 引きつった顔のブランシュが質疑するが、スプーンをくわえたままニコルは「さぁ?」と役に立たない。食べ終わりまで待つと、食器をテーブルに置いて、いつの間にか注いでいたミネラルウォーターを飲み干している。ブランシュは思い出したようにイスに腰掛ける。


 全てが胃に収められ、再びベッドでゴロゴロとした後、やっとニコルは語り出した。


「一四、五歳になるとさ、母親か祖母から香水もらうじゃない? ウチはさ、そんな感じだから、じいさんからもらうことになってんのよね」


 羨ましい話だ。世界一の調香師から、直々に香水を渡される。自分も恵まれた環境だと思っていたが、上には上がいるものだ。ということは、先ほどのアトマイザーがそれ、ということだろうか。本当ならば。だが、ブランシュは疑問が浮かぶ。


「でもこれ、中身入ってませんけど……」


「話は最後まで聞いてくださーい」


 なぜか挑発的な態度でニコルはブランシュに返す。ちょっと変な顔も混ざっている。目線が合うとさらに少し変えてくる。


 一瞬、ブランシュが真顔になる。


「そこが問題でさー、じいさんはいつもテーマを決めて香水を作るんだけど、次のテーマが『クラシック』なわけよ」


 と、炎上覚悟の社外秘情報をニコルは投稿する。身内とはいえ、あっさりと今後のラインナップを口にした。これが本当なら大変なことになる。本当なら。


 しかし、真顔で固まっていたブランシュは、ハッと思い出し、唐突にカバンの中から一冊のファイルを出し、パラパラとめくると、ひとつの記事が出てくる。


「そういえば、先々月発売した月刊パルファムで、そんなこと言ってました! 近々、新作ラッシュが来るって! ほらここ!」


 まるで開くことを予定していたような迷いのない指先が、ファイルに綴じられた雑誌の切り抜きを指す。そこには、ギャスパーの写真とインタビューで《テーマは決まっているので、あとは香りのイメージだけですね。腰を据えて、久しぶりに新しいのを出そうかと。近く、発表します》と書かれている。


 鼻息荒く、記事を顔面にぶつかりそうなほどの距離に見せられ、ニコルは一瞬気絶しそうになる。

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

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