表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
重々しく。
139/369

139話

 それで引き下がらず、ニコルは手を変え品を変え可能性を探っていく。ここまできたらもうヤケ。


「ひとりでやるからバレるんじゃない? 他に許可証持っている人達に紛れば、めんどくさくなって全員ぶん確認されないっしょ」


「ダメです。三〇〇人しか許されていない狭き門なんです。毎年二千人以上の応募があるんですから」


 かなり倍率の高い選抜。プロに近い実力者もいれば、素人以下もいる。合格の基準はよくわからないのも特徴だ。ブランシュは応募する予定は今後もない。


「ケチー。とりあえず外にご飯行こうか」


 そう不貞腐れつつも、ヴァイオリンケースを持ったニコルは先にドアから出ていく。強行手段。いつの間にか手元にヴァイオリンがあったテイで。そうしないと予定が崩れてしまう。


 それをしっかりと目撃したブランシュは、結局さっきまでの問答はなんだったんだろう、と頭を抱え込んだ。




 

 夕方以降から朝方にかけては、肌を突き刺すような寒さがパリを包む。五月に入るまではマフラーも必須になるほどに、パリは寒い。厚手のコートを着込んだ二人は、足早にメトロまで向かう。寒さを凌げる場所へ。一刻も早く。


 駅に着くと、幅の広い下りの階段を降りていく。すでに他に演奏している集団もいるらしく、階段下からは騒々しい音がしてきていた。


「いいねぇ、メトロって感じだねぇ」


 このありふれた風景を楽しみにしている市民も多い。パリの文化のひとつ。それにはニコルも同調する。


 パリのメトロは、なんとなく似ている雰囲気がある。天井が低く、電気も薄暗い。そして壁には真っ白なタイルが貼られているところが大半。これは掃除が楽、という点で統一された過去がある。さらに、ドーム状になった天井まで真っ白にすることで、少ない光量でも可能な限りの明るさを実現しようとした。メトロタイルと呼ばれるものである。


 体を揺らして軽やかに歩くニコルとは対照的に、体を縮こませてブランシュは自信なく歩を進める。


「私は……ひとりだと少し怖いです。車体にも落書きされていたりして……」


 メトロは便利でパリでは不可欠なものだが、ダークな面もある。スリなども多数おり、カバンに集中していないと、気づいたら財布がない、ということも。前回は四人という大所帯だったが、今は妹のみ。キョロキョロと目線を配る。


「堂々としてたら平気だって。そんな簡単に出会わないよ」


 初めてブランシュと出会った時に強盗まがいのことをした人物が、なにか言っている。そのことはすでに頭から消え去っていた。


 冷ややかに目を凝らすブランシュ。そして連絡通路の先から、また違う音楽が聴こえてきた。聴き慣れた音。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ