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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
重々しく。
133/369

133話

 それに対して、例を用いて説明するフォーヴ。


「濁って汚れた水のほうが住みやすい魚もいるさ。鯉なんか、清流にいる個体よりも、汚れた川の個体のほうが大きく育つとも言うからね。餌が豊富なんだそうだ」


《そんなもんかねぇ……》


 いきなり魚に話題が変わるあたり、ニコルにとってはこの子も充分変わった子だ。どこから仕入れたんだろう、その知識。


 手入れ終了。ケースにチェロをしまい、鍵をかける。凝り固まった筋肉をほぐしつつ、最後のまとめに入るフォーヴ。


「しばらく弾くのをやめてみるものアリだね。泥水も、穏やかにしていれば上澄みが出てくる。その上澄みはきっと、色々なものが混じった、今までにないものをもたらしてくれるはずだ」


 一日でも練習を欠かすとすぐに腕が落ちる、なんて言い伝えもあるが、落ちない人もいる。落ちるのであれば、それはただ単に今までの練習が不足していただけ。筋トレには休みが必要なように、ピアノの筋肉を休ませることも必要かもしれない。


 色々と話が逸れたりもしたが、納得したニコルの声。やはり持つべきものは友。美味しいお菓子をもってたらなおよし。


《清流にない良さか。人間を基準にするとないような気もするけど、視点を変えるといいかもね》


「それに、完璧でなにもかもできる演奏家は、まず間違いなくいない。苦手な作曲家や曲がいて当たり前なんだ。できないことを認めるべきだね。あのアルゲリッチですら、遅いテンポの曲は弾けない、と認めているくらいだ。歴代のピアニスト世界最高峰でもだよ」


 認めること。割り切ること。ボディビルダーのような筋肉があっても、サッカーや野球などの他のスポーツに有利に働くとは限らない。むしろ重くのしかかってしまう。必要なぶんを必要なだけ。ピアノに必要なものを精査すべきだとフォーヴは言い切れる。


 ちょくちょく出てくる名前の人物、アルゲリッチ。そろそろニコルは覚えてきた。


《まぁなんかすごい人なんだろうけど、わかった。ありがと。私にできることからやってみるわ。フォーヴに手伝ってもらえたら嬉しかったんだけどね》


 今では我が楽団のチェロは彼女の担当。国すら違うので中々会えないのが煩わしいが。


 三曲目と聞いて、いてもたってもいられなかったのはフォーヴも一緒。やはりあの『新世界より』の演奏は、自分の中のチェロ人生においての誉れ。


「私もそうしたかったんだけど、一応、まだ学生の身分だからね。簡単に遊びに行けるお金も時間もない。成功を祈っているよ」


 そうして携帯を切ると、静寂が待っていた。ニコルと話したことで、パリへの旅行のことを思い出す。楽しかったし、いい友人にも出会えた。土産話もたくさんできたし、そしてやはり香水の音、というのはルカルトワイネでも誰ひとり理解できなかった。

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