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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
重々しく。
132/369

132話

 白い骸骨が暗闇を蠢く


 屍衣を振り乱し 飛び回る





「なるほど、それは難儀な話だね」


 ベルギーはブリュッセルにある聖ルカルトワイネ。パリのモンフェルナ学園、ベルリンのケーニギンクローネ女学院と姉妹校となるこの学校。音楽科に在籍するフォーヴ・ヴァインデヴォーゲルは、アンサンブル室にてチェロの手入れをしつつ、目の前のイスに置いた携帯の、そのスピーカーから聞こえる声の主と会話をしている。


 その相手はモンフェルナ学園の生徒……ではないらしい、ニコル・カロー。ブランシュとヴィズが演奏をしている間、暇なのでホールから出てエントランスのイスに座り電話をかけていた。ピカピカに磨かれたガラスの外はもう暗い。


《で、こういう時ってどうすればいいとかある?》


 弾きたいように弾けなくなってしまったイリナの状況を、本人には悪いと思いつつも詳細に伝達。自分にできることはあるか、演奏家の視点からアドバイスを求めていた。


 こちらもイスに腰掛け、弓の松脂を拭き取りながら言い切るフォーヴは確信する。


「ないね。誰しもそうなることはある。ヴィズの言う通りだと私も思うよ」


《というと?》


 なんて言ってたっけ? と、伝え終わった後には消えたニコルの記憶力。いいことを言っていた気もするけど。


「上手く弾くより、長く弾くこと。キュッヒルというオーストリアのヴァイオリニストがいるんだが、彼曰く『同じ曲を千回弾いても千回、新しい発見がある』とのことなんだ。毎回同じように弾くのは音楽家ではないとね。変化を感じているということは、成長しているってことさ。だから、長く弾くことだけ考えればいい」


 言葉にしながら、自分にも浸透させる。いい意識だ。ぜひともヴィズと一度協奏曲でもやってみたいね、とフォーヴはまた楽しみが増えた。


 思い出したニコルは、理解しやすくその言葉を噛み砕く。


《毎回変化を感じているのであれば、長いこと続けると自然に成長してる、ってことか》


 それであれば、たしかに余計なことをごちゃごちゃと考えるより、よっぽどシンプルだ。弾く、より感じ取る。まるで第三者が弾いているような感覚?


 ネックなどの触れた部分も丁寧に拭き取りながら、肯定するフォーヴの脳内はヴィズとの共演。いや、競演。


「そうとも言うね。いい変化なのか悪い変化なのか、考えるだけ無駄さ。新しい弾き方を見つけただけなんだから。もし変化していないと感じたならば、一度、悪い変化を突き詰めてみるのもいい手だと思うよ」


 自分に合った弾き方というものは、その時のコンディションなどによっても大きく変わる。以前試してみて、全く上手くいかなかった弾き方でも、改めて試してみると驚くほどすんなりいくことがある。なにが正解か、など誰にもわからない。


 ニコルには悪い変化、という言葉が少し引っかかる。


《イリナの音が濁ってる、ってヴィズは言っていたけど、それを突き詰めていいものなのか?》


 音が濁る、というのは、素人考えでも悪いことだとわかる。だが、彼女の理論だとそれもまた必要なものに聞こえてくる。

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