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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
重々しく。
128/369

128話

 それを外から見ているだけのニコルは、ひそひそとブランシュに耳打ち。


「……なぁ、どうなんのこれ?」


 予想だにしなかった展開に、思考が停止する。みんなで力を合わせて、という雰囲気では到底ない。そもそもなにが悪くて、なにが原因なのかすら理解していない。


 それはブランシュにも同じ。こういう時、自分ならどうしてほしいか。


「……わかりません。ですが、少しそっとしておきましょう」


 時間が解決する時もある。少なくとも、自分にはなにかできることはない。見られたくないときだって。舞台に上がろうか、それすらも悩む。シン、と静まり返る空気が痛い。


 だが、友人としての長い時間を有している。ヴィズは気にせず、今日来た目的を達成しようとする。


「というわけで、次は私達の番。はい、どいて」


 真横に立ち、俯くイリナに圧力をかける。見下ろし、その視線が背中に鋭利に刺さった。


 それでも最後まであがくイリナ。イスは譲りたくない。ここで譲ったら、惨めな自分を認めなくてはならなくなる。


「……いやだ。あたしがブランシュの三曲目を弾く……」


 頑なに動こうとしない姿を見て、ヴィズはため息をひとつ。


「今のあなたでは役不足。カルメンとベルが終わったなら、次はブリジットか私でも問題ないはず」


 そもそも、そんな誰がどの曲なんて決めていない上に、ブランシュはなにも言っていない。勝手にこちらだけで盛り上がっているだけ。


「あの……そんな深く考えられても……」


 当の本人も、手伝ってもらえるのはありがたいが、申し訳ない気持ちのほうが強くなる。カッチリとした決まりなどなく、流れでそうなっているだけではあるが、自分のせいでは……と冷や汗が流れる。


 だが、そんな浅い考えはヴィズの前では断ち切られる。


「ブランシュ。楽しくやるのと気楽にやるのは別よ。本気でやるから面白い」


 その凄みに、舞台の上と下で距離があるはずなのに、ブランシュにはまるで眼前で言われたような衝撃がくる。


「は、はい……」


 視線を戻したヴィズは、まるで連弾をする時のように、イスに半分座る。譲ってくれないようなので、強引にいくことにした。


 冷ややかなイリナの眼光。


「……なんだよ」


「……シューベルトのことはあまり詳しくやっていないんだけど……」


 そのひと言の終わりと同時に、ピアノが走り出す。調律が悪いわけではない。むしろ最高。シューベルトの繊細な心情を表現することにおいて、全て応えてくれるほどの吸い付きと響き。


「……!」


 甘く、苦く、優しく、柔らかく、重く、清く……様々な感情が溢れてくる『ピアノソナタ 第二一番』。より、深い表現を可能にするビブラート。は、当然ない。だがまるで心が震えるような。イリナの心もビブラートするような。

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