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Parfumésie 【パルフュメジー】  作者: じゅん
重々しく。
125/369

125話

自分のせいになりそうな予感をブランシュはキャッチしたため、止めに入る。


「勝手に付け足さないでください。でも——」


 ……ヴィズの言う通り。あれは、イリナの音ではない。心にしまい込む。


 なにやらトゲトゲした空気に、音楽のことはさっぱりだが、敏感に反応するニコル。


「はい、ストップストップ。なんかよくわかんないけど雰囲気悪いね」


 自身が入る事で興を削ぐ。上がりかけていたボルテージを下げる、緩衝材のように立ち回った。


 その行為に、まだあまり親しくはないイリナは眉を顰める。


「あんた、クラシックは詳しくないって言ってなかった?」


 たしかマネージャーとかなんとか。楽器はなにもできず、知識もない。ブランシュの妹、にしては似てないけど。能天気に見え、モヤっとした雲が胸につっかえる。


 全くその通りなので、否定する要素のないニコルは潔い。


「詳しくないよ。作曲家がなんであんなに髪を巻いてるのかも知らないし。ただ、ひとつわかることがある」


 ただ、ほんのちょっとだけ毒を垂らす。


 思わせぶりな態度に、イリナの目線はさらに鋭くなる。


「なに? どんなの?」


「ブランシュはイリナにピアノを頼まない。確定だね」


 全く状況は読めていないが、ニコルには自信あり。たぶん。いや、マジでたぶん。確定って言わんほうがよかったかも。


 目を血走らせたイリナが詰め寄る。


「は!? なんで!? 今、いいって言ったじゃんッ!」


 無表情で明後日の方向を見上げるニコルの両肩を掴む。そして揺らす。


「私に腕前のことなんか言われても。ただ、ブランシュがそう言ったらそうなんじゃない? 本人に聞いてみたら?」


 とぼけたように受け流すニコルは、標的を再度変更させる。その視線の先には唇を噛むブランシュ。


「なん……で」


「とりあえず『ピアノソナタ 第二一番』、弾いてみたら? 自分でもわかるでしょう、きっと」


 わなわなと震えるイリナに、原因を悟らせようとするヴィズ。美しい転調を伴う『ピアノソナタ 第二一番』。それに理由が詰まっていると。


「だからなん——」


「弾けないの?」


「ッ!!」


 ヴィズに蔑まれたと捉え、感情を剥き出しにピアノに向かうイリナ。シューベルトが亡くなる二ヶ月前に作曲した曲。儚く、それでいて燃え尽きるように。美しさの極致にある、と表現する人もいる最後のピアノソナタ。


「あんな状態で弾けるものなの?」


 まず間違いなく力が無駄に入っていることは、ただ流されるだけのニコルにもわかる。そんな時は姉に聞く。これ、人類の知恵。

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