107話
翌日。ホールの舞台下。
「抜け駆けは感心しないわね」
「卑怯」
「なんでベルがいるんだ?」
ヴィズ・カルメン・イリナが到着し、ホールに賑わいが増す。久方ぶりのホール。やはり響きがいい。早く弾きたい。が、今日のピアノはベル。自分達は主役ではない。
「いや、そんなこと言われても……行けって言われただけだし」
なぜか口撃されて、ベルは不満を述べる。ワケもわからずここに来させられて、それでいて聴衆からは野次を飛ばされる。もうなんなの。
ただひとり、応援する者もいる。ノエルで同じくピアノを弾く仲間、ブリジット・オドレイ。好きな作曲家はショパン。引っ込み思案であがり症。ショパンへの理解なら誰にも負けない。
「で、でも『新世界より』、楽しみにしてるから」
ベルに声をかける。聞いてはいたが、本当にやるんだ、と昨日から楽しみだった。
「ブリジットも。来てくれたんだ。これでノエルのピアニスト全員揃ったね」
クリスマス、フランスではノエルの時期、讃美歌などを歌い上げたり、ピアノリサイタルなどを行う教会は多い。九区にあるサントメシエ教会にて、モンフェルナ学園は五日間のリサイタルを、それぞれの作曲家で分けて行う。そのピアニスト達がここに集結した。結束力は思ったよりは高い。
チェロを抱えながら、フォーヴはあたりを探る。が、目当ての人間はいない。
「ジェイドは……まぁ、アルバイトらしいから、しょうがないね。ベアトリスさんてのは、まだかい?」
見たところ、それらしき人はいない。というか、四人しか見当たらない。ベルに問いかける。
「まぁ……来ないと思うよ。わざわざクラシックを聴きにどこか行くような人でもないと思うし。ダメもとだったから」
むしろ、自分のために来ることが考えられない。来たら、それはそれで裏がある気がする。素直には喜べない。
「そっか。それは残念。フォーヴ・ヴァインデヴォーゲルだ。よろしく」
個人的に会ってみたい人物ではあったが、切り替えてフォーヴは挨拶する。モンフェルナの音楽科。どんどん交流したい。
「よろしくね。ルカルトワイネから来たそうね、楽しみにしてるわ」
ヴィズが受ける。珍しい、チェロの立ち弾き。これも気になっている。実力も。
「よろしく」
「よろしくー」
「お願い、します」
カルメン・イリナ・ブリジットの三人ともフォーヴは握手。ぜひとも時間があれば、彼女達ともカフェ行きたかった。
「じゃあ、早速だけど。やりますか」
そのベルの呼びかけに、ピリっと緊張感が生まれる。練習とは全く違う。間違えたところで、審査員がいるわけでもない。それなのに鼓動が速くなる。




