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5.妻は奥様情報網でしっかりと把握する

リヴァイは答えを見つけられずに悩み焦っている。けっしてそんな素振りを私の前で見せないけれど、私は知っている。


 ほーっほほ、奥様情報網を舐めてもらっては困る。



木にしがみついてブツブツと呟いている怪しい姿も、しょんぼりとした顔で馬を走らせている姿も、しっかりとこの耳に入ってきている。


前者だけはやめて欲しい。するのなら、誰もいない森の奥でひっそりでお願いしたい。


なぜなら奥様情報網で今一番の話題は『怪しいリヴァイ、知ってる?』になっているからだ!


こんなことで夫が一躍時の人になるなんて、妻としては複雑な気分だ。




……本題に戻そう。



『可哀想だとは思うけど脳筋騎士に手は貸せないわ』

『向き合おうとしている態度は認めるけど、それでもね…』


これは離縁した元妻達の言葉だ。

追い返さずにいてくれただけでも有り難いと思っている。


リヴァイが彼女達を傷つけたわけじゃない。

――でも悪しき文化の継承者なのは事実。



それでも相手をしてくれたのは、彼女達だって変えたいと思っているから。


 みんな本当に優しいな…。


辛い過去を経験してるけれど、前を向いて協力してくれている。


――期待を込めて。




元妻達が話さないのも、元夫達が話せないのも分かっていたこと。

そして、夫が答えを見つけられずに藻掻くことも予想通りかな。


 うーん、向き合って諦めないだけでも上出来よね。



駄目なところを嘆くのではなく、良いところを見つけて評価する。


惚れた弱みではなく、こういう行動に出た騎士はなんと言っても彼が最初なのだから、それだけでも凄いこと。


 ……私に半ば脅される形でだけどね。




騎士達は考えることすら今までしてこなかった。


だって兎は兎、狐は狐という常識のなかで育った人は、その事実に疑問は持たない。

なぜなら疑問を持つこと自体が困難なのだ。


私だって豚は豚だと思っていて、疑ったことはない。なんで疑問を持たなかったと言われても困る。

特に意味なんてない。

極端な話、そういうことなのだと思う。





だからあの悪しき慣習が変わらない。




 ……逆の立場になって考えればいいだけなんだけどね。


そんな簡単なことにすら辿り着けないのは、刷り込みだけでなく男達にとって不都合がないから。


誰だって自分にとって不快でないことは変えようと思わない。



残念な脳筋騎士達。で、夫もつい最近まで完全にそのお仲間だった。



でもちょっとずつだけど前に進んでいる。それに今日は彼の心に大きな一歩を感じた。

……気のせいじゃないはず。

 


これから夫は副団長夫婦を訪ねて何を得るだろうか。





数週間前に、私は今回の件に関して友人でもある副団長の奥さんに協力を頼みに行った。


『いいわよ、でも私にとって大切なのは友人であるあなただけ。『出来た夫だ』と言う馬鹿はどうなってもいいわ』

『ごめんなさい』


その馬鹿の一人は私の夫で、間接的に彼女を傷つけた。本当に申し訳なく思う。


『謝らないで。もう吹っ切れているから気にしていない。それに気にする時間が勿体ないしね。あなたの頼みだから協力はするけど、私流でやらせてもらうわよ』


感謝こそすれど、異存などない。


『よろしくお願いします』

『でも本当にこれでいいの?後悔しない…?』


彼女には計画の段階にすべてを伝えていた。

馬鹿のためにそこまでする?って叱られて呆れられて、しぶしぶ認めてくれた。

それでもこうしてもう一度確認してくるのは優しさから。


痛みを知っている人はその分だけ優しくなれるのだ。



『これが良いんです、後悔なんてしませんよ』


目を逸らさずにそう告げる。何度も何度も考えて自分で決めたことだ。


『底なしのお人好しか、……究極の純愛ね』

『うわぁ、なんか凄く良いです。その崇高な響き!』


前者をまるっと無視して――だってお人好しより純愛のほうが格好いいもの、後から言われた言葉に照れていると、『ばか、褒めてないから…』と震える声で告げてから彼女は静かに泣いていた。


――私は笑っていた。


彼女のような人と友人なのがとても嬉しくて……。



こんな素敵な人を手放すなんて、本当に副団長は愚かだ。地獄に落ちろっと思ってしまう。



ふんっ、私は愛する夫以外には厳しい女だ。

心が狭い?違う、すべてを救うのは無理だと知っているだけ。


――現実主義なのだ。




誰に対しても優しい人なんていない、いたとしたらそれは詐欺師か神様のどちらかだ。

だからこそ、自分に寄り添ってくれる妻を傷つけるべきではないのだ。


 ああ、副団長に物申したい、ついでに殴りたい。



……そんな時間があればだけど……



手だと骨折しそうだから棍棒でも用意しておこうかなと冗談を口にすると、『最近買ったから貸すわ』と彼女が答えた。


――その目はなぜか殺る気に満ちていた。


ちょっと引いた‥‥。そしてなにを殺るつもりだったのかは聞かないでおいた。


辛い思いは想像以上に人を逞しくすると知った。

私は慌てて『すり棒で十分かな~、あっは‥は…』とその話を終わらせたことを、一生忘れないだろう。








明日か明後日か、夫の前に細い細い蜘蛛の糸が垂らされる、…たぶん。


 さあ、旦那様。気合を入れて登って来てね!



――その先にはきっと幸せが待っているから。




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