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15.元夫婦は神様にお願いする、そして……②

「なかなか良い条件の空きがあるぞ。お局様には、――いやいや間違ってしまったの。すまん、すまん。歳のせいで耄碌しておるようじゃ。では改めてカサナにはこれで、リヴァイはこっちじゃ」


お局様呼ばわりは絶対にわざとだ。

歳のせいってなにを言っているのか。見た目はおじいちゃんでも歳を取らないくせに!


――嫉妬心丸出しの神様。


 …ふっ、器が小さいわね……



神様が私達に示した生まれ変わり先は好条件だった。神様なりに前世のことを思って配慮してくれたのだろう。


「神様、嫌です」

「俺も絶対に認めません!」


それは恵まれた環境だが、お互いに絶対に出会わない関係となってしまう。だから二人揃って断った。



私とリヴァイの今の関係は元夫婦だ。

だからこそ、来世でまた夫婦として結ばれて、しわしわのお婆ちゃんとヨボヨボのお爺ちゃんになりたいと二人で話していた。


――前世の続きをと望んでいる。




「二人が出会う運命で、かつ条件の良い空きはないんじゃ。それに人は生まれ変わる時、記憶も性格もすべてを捨てていくんじゃ。だから来世でも今と同じように惹かれ合うことはない。生まれ変わっても一緒になろうは幻想なんじゃよ」


神様が言っていることは真実だけど、それでも私達は頷かない。



「俺はカサナと一緒に歳を重ねることが出来ませんでした。来世ではその夢を叶えたいんです。でも出会わなければ何も始まりません。だからチャンスを下さい、お願いします神様!」


私もリヴァイの言葉に頷く。

出会っても前世のように恋に落ちないかも知れない。それでも、出会いたいと心から願っている。



「うーん、困ったの。二人が出会う運命にある空きはこれしかないんじゃ。儂が言うのもなんだが、最悪じゃぞ。前世で悪いことをした奴にあてがおうと思っていたんじゃ」


神様は私達に『ほれ、儂なら選ばんぞ』と生まれ変わり先が記された紙を見せてくる。


どちらも高位貴族だが、親に恵まれておらず精神的に追いつめられる環境で性格もかなり歪みそうだ。

それに出会う運命と言っても、彼は私の姉の婚約者という立場で決して結ばれない関係。


本当に最悪だ、でも出会える。そしてこれ以外は決して出会えない。



――究極の選択。




結ばれなくとも、私は近くで彼の幸せを見守りたい。


 でもリヴァイはどうだろう……。


大変な境遇に生まれ変わることを強制はできない。私の想いを押し付けるつもりはないけど、出来れば彼も同じ気持ちでいてくれたらと願ってしまう。


 ……やっぱり我儘かな……。


この気持ちを伝えるべきか悩んでいると、彼が不安そうな顔をして私を見てくる。



「本当なら俺がカサナを幸せにしたい。でもそれが無理なら、なるべく近くで幸せになるのを見届けたい!だから俺はこれに生まれ変わりたいと思ってるけど、……カサナは…どうかな…?」

「私も、どんな形でもあなたの幸せを見守るわ」


私の悩みは杞憂だった。二人とも想いは同じだった――さすがは元夫婦だ。



「神様、これで良いです」

「俺もこれでお願いします!」


私達が声を揃えてそう告げると、神様は『本当に最悪じゃぞ…』とため息を吐いている。



神様が奇跡を起こすことはないと言っていた。

奇跡とは、誰かが努力や強い想いや運などが複雑に絡み合って、得ることが出来た幸福な結果なのだと。


だから奇跡は期待していない。


私達は自分が出来る最善の選択をする、出会わなければ始まらないから。



神様は今後の流れを説明した後、もう一度確認してくる。


「記憶も性格も消えて、まっさらになるんじゃ。出会ってもお互いに分からん。それでもいいんじゃな?」

「はい、後悔はしません」

「俺は脳味噌じゃなくて、魂にカサナを刻み込んでいますから。神様、魂は消えませんよね?」

「馬鹿なことを聞くでない。魂が消えたら、そもそも生まれ変われんじゃろが……」


リヴァイの質問に神様は『こいつ、大丈夫かのう…』とため息を吐いている。



――大丈夫に決まっている、これが私の愛する元旦那様だ!



「カサナ、先に生まれて待ってる。そしてどんな形だろうと、君を幸せにするからなっ!」

「うん、すぐに私も生まれる。今度こそ、最後まで近くであなたの幸せを私は見届けるわ」


最初に生まれるのは彼で、私はその数年後に生まれ変わる予定だ。でも天国から去るのは一緒で大丈夫らしい。

二人の体が輝きながら薄らいでいく。



「では二人とも頑張るのじゃぞー」



私達は抱きしめ合いながら口づけを交わし、そして消えていった。





◇ ◇ ◇



――二人が去ったあとの天国。



「やれやれ、お局様がやっといなくなったのう」


トントンと肩を叩きながら『今日もいい仕事をしたのう、儂』と頑張った自分を褒める。


神様という立場は崇められるけど、出来て当たり前と思われているので褒められることは基本ない。

だからこうして、自分自身で褒めて伸ばす生活を心がけている。


 儂って健気じゃな……。



「神様、なんであの二人を止めなかったんですか?上手くいくはずないのに…」


儂の仕事にケチをつけたのは神様見習いだ。不満そうな顔をしてまだ文句を言っている。


確かに見習いの言う通りでもある。二人が結ばれる確率はほぼゼロだろう。


カサナは別世界でマーズ公爵家の次女として生を受け、その環境からいろいろと拗らせる。

一方、リヴァイはルーズナ侯爵家の次男として生まれるが正妻に迫害され、これまた幼少期から悲惨な環境に置かれれる。

そして、彼はマーズ公爵家の長女の婚約者。



運命は最終的にどうなるか決まっていない。だがこの設定では、いくらなんでも奇跡は期待できないそうにない。


「確かに難しいのう…」



儂が同意すると『神様はそんなにお局様を追い出したかったんですか?』と聞いてくる。


そう思われていたとは心外だ。確かにお局様もといカサナが出ていって、ほんの少しだけほっとしているが、追い出したいから二人の選択を認めたわけではない。


 むむっ、そこまでみくびるでないわっ!


――これでも腐っても神様じゃ。



「奇跡が見たくてのう……」

「……奇跡ですか?でも神様だって出来ないじゃないですか」


見習いの容赦ない言葉が儂の繊細な心にグサッと突き刺さる。

もっと敬えと言いたいところだが、……負けそうなので平気なふりをする。


 儂は負け戦はせん主義じゃ!



「儂は出来ん。じゃがな、あの脳筋ならいける気がしたんじゃ。記憶ではなく魂に妻を刻み込んでいるってどんだけ馬鹿なんじゃと思った。正直儂はどん引きじゃ」

「そうですね、なんか粘着質っぽい発言で気持ち悪いです」


見習いは『僕、鳥肌が立っちゃいました』と腕を見せてくる。実は儂もあの時鳥肌が立っていた。



「じゃがな、カサナはそんな夫をそれはもう嬉しそうに見てたんじゃ。それを見て儂は思ったんじゃ、『この二人は似た者夫婦だ』と」

「それはどういう意味ですか?同じレベルでヤバい奴ということでしょうか?」


その通りだが、その言葉使いはいただけない。仮にも神様見習いなら、もう少し言葉をオブラートに包むべきだ。


「ゴッホん、まあ、超越しているということじゃな。神は奇跡を起こせん。だが彼らなら、本当に魂に何かを刻み込んで生まれ変わる気がしたんじゃ。そしてほぼゼロをひっくり返して結ばれるんじゃないかと期待しておる。もしそれが出来たら、それこそ奇跡じゃからな……」



人は神が奇跡を起こすと思っている。しかし実際に奇跡を起こせるのは神ではなく人だ。


だがここ数百年はお目にかかれていない。


 そろそろ見たいもんじゃの……



神だって『奇跡』を信じたいのだ。



「とりあえず天国から応援するかのう」

「そうですね。お局様も応援にはパワーが宿っているって言ってました」


儂と見習いが生まれ変わった二人を天国から応援していると、周囲から同じように応援している声が聞こえてくる。


「お局様、頑張って!」

「ほら、お局様の元夫もしっかりっ!」

「フレーフレー、元夫婦!」


それはカサナに話を聞いてもらっていた者達だった。どうやら、みな奇跡を望んでいるようだ。

この様子だと、みな奇跡を目撃するまで生まれ変わらないと駄々を捏ねそうだ。


それは困る。魂といえども収容できる人数には限りがある。

なので、天国が定員オーバーになる前に奇跡が起こることを祈ることにした。


「神様どうかお局様と脳筋をお助けくだ、――あっ…!」


祈りの途中で大事なことを思い出す。


 ……困ったのう、神様は儂じゃった……


(完)


最後まで読んでいただき有り難うございました。

カサナとリヴァイが誰に生まれ変わったか分かったでしょうか?

『悪役令嬢と噂されているので、全力で逃げることにしました!~できれば静かに暮らしたい~』に出てくる、レイリン・マーズとハリロン・ルーズナに生まれ変わります。

どちらも単体で読める作品ですが、生まれ変わった二人はどうなの?と興味がある読者様は、是非『悪役令嬢~』を読んでみてくださいませ。

(⚠ハリロンの良さは最後まで読まないと分かりません)



※投稿ジャンルを『悪役令嬢と噂〜』にあわせて異世界恋愛に変更しました。

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