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一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。

籠の鳥は今日も歌う

作者: たまご
掲載日:2022/08/26

 僕は足音を立てないように、そうっと彼女のいる部屋に近付いた。


 重い扉には厳重に閂がかけられている。


 数週間前にどこかから連れて来られた娘は、一人きりになると美しい声で歌うのだ。


 今日も、聞いた事のない言葉で軽やかな旋律を口ずさんでいる。


 思わず、ほう、と息を吐くと、持っていた本を落としてしまった。


 しまった!


「……誰かいるの?」


 訝しげな声で、部屋の中から彼女が問いかけてきた。


 僕は、思いきって声をかけた。


「あ、あの、歌があんまり綺麗で……」


 つい、聞き惚れてしまったんだ。


 そう言うと、ふふと小さく笑う声が聞こえた。


「ありがとう」




 それから、僕達は夜中にこっそりと話をするようになった。


「あなたは、ここの人達とは違うのね」


「僕は、落ちこぼれだから」


 ほかの皆は日々研究に精を出し、結果を出している。


 僕は本を読むのは好きだったけれど、実践は苦手だった。


「……あなたは、優しいから」


 意味ありげな言葉に、僕は息を飲んだ。


「き、君、何かひどい事をされているの?」


 閉じ込められてはいるけれど、三食きちんと運ばれているし、着替えも届けられている。


 そう聞いていたのに、違ったのだろうか?


「何もされていないわ、大丈夫」


 今のところはね。


 彼女は、小さな声でそう言った。


「……」


 確かに、ここの人達は研究のためならどんな事でもする。


 それについていけなくて、僕は本を読む事に没頭していた。


 だけど。


「……お願いがあるんだ」


「何かしら?」


「歌ってほしいんだ」


 僕に、勇気をくれる歌を。


 彼女は、小さな声で歌い出した。


 美しい声で、優しい旋律を。


「……」


 僕は、覚悟を決めた。


 しばらく、ここには来られなくなると告げて、僕は彼女から離れた。


 それから、僕はひたすら本を読んだ。


 見つけなくてはならないからだ。


 鍵を。


 大概の事は、本が教えてくれる。


 あの、美しい歌以外は。




 それから何日も、何十日も、何百日もたって、僕はようやく鍵を手に入れた。


 籠の鳥を自由に羽ばたかせるための鍵を。


 久しぶりに、彼女の元へ向かう。


 無事だっただろうか?


 歌が、聞こえてきた。


「!」


 けれど、それは掠れた物悲しい旋律だった。


「き、君、大丈夫かい!?」


 思わず、扉に駆け寄った。


 返事はない。


「ぼ、僕だよ。本の好きな……」


「ああ、あなたなの。久しぶりね」


 嬉しそうな声だったが、どこか疲れはてているようでもあった。


「ごめん、遅くなって……」


 もっと早くに来られたらよかったのに。


「ううん。いつか、また、あなたが来てくれると思ったから……」 


 だから、耐えられた。


 彼女はそう言った。


 僕は胸が詰まったようになって、何も言えなくなった。


 僕がもっと優秀だったら。


 僕がもっとものを知っていたら。


 僕がもっと……。


「また来てくれて、嬉しい」


 彼女の言葉に、我に返った。


「お願いがあるんだ」


「……何?」


「僕と一緒に逃げてほしい」


 彼女が、息を飲む気配がした。


「でも、だけど、ここの扉は……」


「うん」


 ここの扉には閂だけではなく、古代神語による鍵がかけられている。


「大丈夫。僕が開けてあげる」


 誰にも知られず、僕が古代神語を習得出来たのは本のおかげだ。


 大概の事は、本が教えてくれる。


 この気持ち以外は。


「君を、自由に歌わせてあげたいんだ」


 しばらくの沈黙のあと、彼女は「うん」と言ってくれた。


 古代神語による解錠の言葉を呟き、閂を外す。


 重い扉を開けると、少しやつれた彼女が笑いながら僕を見た。


「初めて顔を見たわ」


「……がっかりした?」


 ふふと小さく彼女は笑った。


「ちっとも。優しい、私の勇者様」


「勇者って、僕はそんなんじゃ……」


「どうして?」


 僕はまともに彼女を見れず、うつむいた。


「もっと早くに、君を助けてあげられなかった……」


 彼女は、そっと僕の手に触れた。


「でも、あなたは諦めなかったんでしょう?」


 だから、私を救えた。


 そう言って、彼女は笑ってくれた。


「さあ、行きましょう!」


「……うん」


 僕と彼女は手を繋いで逃げ出した。




 僕が目を覚ますと、彼女はすでに朝食の準備を始めていた。


「おはよう、私の勇者様」


 空に向かって。


 風に乗せて。


 小鳥のさえずりと共に。


 彼女は、美しい旋律で今日も歌っている。

















 



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