だいじゅうわ!
「取り敢えず君達、露出している下着をしまってくれないかね?」
至極当然のお言葉が、社長の口から放たれる。
それに対するは合計五名の新入社員だ。今日、入社式というハレ舞台に出席している彼らは、どう言う訳か全員がインナーを露出している変態集団と化していたのである。
故に、社長は事態の根本的解決を図るため混乱の源らしき男性新入社員ーー妻木 主税に視線を向ける、が。
「社長、何でズボン履かないといけないのです?」
「逆にどうしてズボンを履きたくないのかね?」
おかしな事に、妻木の返答には一般常識の欠片も見られなかった!
余りにも斜め上な彼の返答に社長は面食らいつつも、今度は人事部に所属して入社式の司会を務める神事 果に目を向ける。
「神事くん。この子は君が採用面接をしたと思ったが、どう言う事なのかね? なぜこうも下着を露出したがる子を採用したのか、是非とも聞かせてもらいたい」
「これは儀式です」
「君もまだ言っていたのか」
据わった目付きで滅茶苦茶なことを宣う神事の精神状態は、見て分かるくらいに普通でなかった。
彼との真面な会話を即座に諦めた社長は、大きく溜息を零していたのだった。
「こんなに酷い入社式は初めてだ......良いから、君達はその下着を隠しなさい。チャックを全開にするなんてはしたないぞ」
「とか言って、社長の視線が原のスカートの中へ釘付けになってるじゃないですか。やっぱチラリズムって素晴らしいですよね」
相変わらず下半身はパンツ一丁のままの格好で社長に指摘する妻木は、毅然としていた。しかし、上半身はネクタイを締めてジャケットまで羽織っているだけに、絵面は完全に間抜けで変態のそれであった。
そしてその変態からの指摘を受けて、社長は分かりやすくうろたえる。
「新入女性社員のパンチラで興奮しました?」
「ばっ、何を馬鹿なことを!? 私はそんなもの見てはいないぞ! て、適当を言うな!」
「えー? でもさっきから社長の白い下着がチャックからモッコリ飛び出してますよ?」
「なんだとっ!?」
妻木の言葉通り、社長が視線を落とせばそこにはチャックの隙間からこんにちはをしている白い膨らみが一つ。
この時、社長は己の身に何が起こったのかを察した。
それから、気まずそうな顔をしてチャックを締めて言うのであった。
「き、気付いていたのなら、何故早く教えてくれなかった?」
「だからやったてたじゃないですか。こっちもチャック全開にして社長が気付いてくれるかなって」
再三の要求に従い、妻木たち新入社員は大人しくインナーの露出を取りやめる。そしてそんな彼らに対して、社長は声を荒げた。
「分かる訳ないだろ! エスパーじゃないんだ、それとなく教えてくれたら良かったじゃないか!」
「ではウィスパーでお伝えいたします。......社長、チャック開いてますよ」
「いまさら耳元で囁いてどうする!? 遅いわ!」
「やれと言ったのは社長じゃないですか」
「誰も言ってないんだけど!?」
もはや会話が成立していない。
聞いているだけで頭が痛くなりそうな妻木と社長の会話を耳にして、ようやく正気に戻った神事は呟く。
「......もう帰りたい」
室内に響く、単語以上会話未満の日本語の応酬は、まるで神事の給料を削ぎ取っていく音にしか聞こえなかった。




