岡塚汲広の平穏な日常が変わった! 後編
式は、流行りのキリスト系の結婚式ではなく、神社での神前式であった。
アントネラはスキカと出会ってからは、宗教観は、変わってしまった、というか揺らいでしまった。しかし、元々、別の宗教を信仰していたアントネラにとって、一神教で、他の神を崇める宗教の挙式は嫌だったらしい。
それで、多くの神を許容する神前式になったのである。しかし、今現在、元の宗教を棄てきれないアントネラには、宗教観に一家言あるようである。
少し赤みがかった茶色の髪を、文金高島田を結い、白無垢の着物に身を包んだ西洋風の美少女、しかも、年齢16才という異質な存在。また、それには若干劣るが、16才の新郎。異様に思った神主さんは初めは若干引き気味であったが、途中、腹をくくったようで、式は滞りなく執り行われた。
神前式自体は通常、身内だけで行う。岡塚家は総出。しかし、カンデラ家側からは出席者はいなかった。
掃き出し窓の魔法を使えばこちらに来ることもできなくはないが、あちらでも式があることだし、子供が二倍、二倍!だと周りの混乱もますます大きくなる。その姿を、アントネラは気丈に振る舞うかわいい新しい家族ととらえた岡塚家の面々は、アントネラをかわいがってやろうと各々、内心で思うのであった。
各々の世界での結婚式が終わればそれぞれの世界の異質な部分を互いに送り合うことは、スキカに言われた事もあるが、汲広、アントネラの見解としても、互いに利があると思っているので、それはそれでやってやろうと思っているのである。
「これも嵐の前の静けさ… と言うのかな?」
指名され、二つの世界を混乱させる側に回った汲広は、ぽつり、誰にも聞こえない小声で、そうつぶやくのであった。
*
式が終われば、披露宴である。こちらもやはり、岡塚家側の出席者ばかりで埋め尽くされ、カンデラ家側の出席者はいなかった…かに見えた。
しかし、世紀の異質カップルを見ようと記者やらが集まり、カンデラ家側の席を埋め付くし、岡塚家側とほぼ同数となった。そこで執り行われるのは、そう、テレビ生中継の披露宴。新婦側は慣れたものだが、岡塚家側はガチガチに緊張していた。
司会はそのテレビ局の新人アナウンサーだった。式が始まり、一通り会場を温てくれた。
「それでは、新郎の岡塚汲広さんとアントネラ・オーフィールさんのご入場です!」
式場最奥の扉が開く。新郎・新婦、カチコチに緊張しながら入場する。二人は、一段高い最前列の席へと着席する。アントネラの両親が居ないので、両サイドには、汲広の両親である。
汲広の恩師からの祝辞、アントネラの第一発見者の学者先生の祝辞等、岡塚家側は何だか雑談が目立ったが、その後は式は滞りなく進行し、急遽、花束贈呈はなくなり、温かい拍手の中、式は終わったのだった。
*
新婚旅行は無かった。汲広は学校があるし、アントネラは一応、何というか、長旅の後という設定であるからである。
二人は汲広の家族と共に、家へと戻った。二次会とかはナシである。汲広の他の親族は、ホテルを取っているらしく、家へと押しかけるということもなかった。
疲れていた。
皆、簡単に風呂に入り、自室にて就寝となった。結婚届はまだである。そこに一抹の不安がある。そう、先ほどのキスカのせいで。考えても仕方がないので、汲広はベッドに潜る。すると、今まで眠っていたかのようにスーッと眠りに落ちる汲広であった。
後日、汲広は今、市役所に来ている。婚姻届をもらいにだ。窓口にて
「婚姻届下さい」
「何枚ですか?」
(あぁ、書き間違ったとき用か。2枚予備をもらうとして)
「3枚お願いします」
「まぁ♪もうお3人さんと結婚を同時にされるのですね♪」
「いえ、書き損じ用も含めて3枚です」
「それでは3枚お渡しします。カッパとか人魚とかツチノコなど、人外の方との結婚も、一応届けて下さいね♪」
「はぁ? いえ、そんなヤツとの結婚はあり得ませんから。と言いますか、会ったこともありませんから」
カッパとか人魚とかは百歩譲ってまぁ、分かる。でも、ツチノコと結婚はねぇだろ!
スキカさん、あんたとんでもないキャラクター与えてくれたな!と
心の中であらためて思う汲広であった。
(婚姻届はもらった。しかし、用紙をもらうだけでSAN値まで削られるとは…)
これから歩む道の前途多難さを嘆く汲広であった。
汲広は家に帰り、一度自室に戻った。
そして、家族の皆が揃うのを待つのであった。
*
家族が全員揃ったのを見計らって、汲広は結婚用紙を広げた。皆の前で書きたいと思ったからである。
汲広がほぼ欄を埋め、アントネラが新婦の欄の名前を、証人の欄を両親に書いてもらった。書き損じもなく、一発成功である。
汲広の父、修司がもう一度見て不備がないことを確認し、婚姻届を提出するため、修司、汲広、アントネラは市役所へ行くのであった。
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「婚姻届を提出に来ました」
そう言って、二人で持った届けを市役所職員に渡す汲広とアントネラ。身分証明書は汲広の学生手帳、修司の運転免許証で確認を取ってもらう。
果たして婚姻届は難なく受理された。実にあっけなく。
(あの昼間に対応し、奇人扱いしてくれた受付のお姉さんが、スムーズに受付が済むよう何か準備してくれたのかな?)
そう思う汲広であった。
*
自宅へ戻ると豪華な料理が用意されていた。汲広の母、朋子がお祝いとして作ってくれたのである。
「お父さん、お母さん。16才でとか、無理な結婚を許してくれてありがとう」
汲広は改めて感謝の言葉を言うと、
「役所がうるさ… 、いや、結婚おめでとう。これで、名実ともに夫婦になったな。二人が幸せになれるよう、手助けもするし、祈っているよ」
「汲広が幸せならそれでいいのよ」
汲広は泣いた。嬉しくて泣いた。ひとしきり泣いた後で、家族でおいしい食事と歓談をした。食器を片付けた後も歓談は続いた。
ひとしきり歓談し終えた後、それぞれ風呂へ入る者、明日の宿題をする者、明日の準備をする者、食事の後片付けをする者と、それぞれ各々の用事をするのであった。
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汲広が風呂や宿題、明日の用意などを済ませ、あとは寝るだけとなった頃に部屋をノックする音が聞こえた。
「はぁい。開いてますよ」
現われたのはアントネラだった。パジャマ姿で、なんか、先ほどとは違い、色っぽい。
「あちらでは、もう、済ませちゃったみたいだし、今から… その… する?」
もうすでに、結婚しているわけだし、断る理由は無かった。汲広はあちらでは欲望のままに襲いかかるように激しくしてしまったことを後悔していた。今度は、自分本位ではなく、相手を思いやりながらアントネラを抱く汲広であった。
*
汲広にひとしきり抱かれ、互いに満足し、
「お休みなさい」
「お休み」
自室へ向かうアントネラであったが、何だか満足したような、不安が無くなったような表情をするアントネラであったが、汲広はその事に、ついに気付かなかった。汲広はもうやることが無くなった。眠い。ベッドに入り、毛布を被って睡魔の赴くまま、深い闇の中へおちていく汲広であった。
お読み下さりありがとうございます。
地球や日本、リアルな世界とこの話での世界観は同一ではありません。また、ぷい16が理想とする世界観でもありません。フィクションとして楽しんで頂ければ幸いです。