岡塚汲広の平穏な日常が変わった! 前編
汲広は起き、パジャマをラフな普段着に着替える。
ラフとは言っても、これで町中を歩いても別段恥ずかしい恰好では無い。岡塚汲広はこういうところはしっかりしているのである。
二階の自室から一階へ下り、洗面台で軽く顔を洗い、口をゆすいでから家族が居るであろうリビングへ向かう。果たしてそこにはソファーにゆったりと座ってテレビを見ながらくつろいでいる父の修司と妹の朝里が居た。テレビには巨大隕石が落下した模様を伝えるワイドショーが映っていた。しかし汲広はそんなニュースなんて思い当たらなかった。
「へぇー。そんなのが堕ちてくるんだ。怖いな。何時堕ちるんだ?」
「汲広、まだ寝とぼけているのか?もう堕ちた後だろう。被害ゼロ。お前、当事者だろう?」
「お兄ちゃん間抜け~~」
汲広には本当に記憶に無かった。そして、違和感を覚える。
記憶の中に、”ウソ記憶・生活に必要・要確認”という昨日までは無かった怪しげなものがあった。こんなことができるのはヤツしかいない。
家族の前で変な仕草や表情を晒すわけには行かないと、汲広は一旦自室に戻り、机に備え付けの椅子に座り、その知らない記憶を思い返してみた。
その記憶のあらましはこうだ。
太平洋に巨大隕石が堕ち、原因は究明されていないが、堕ちた所に陸ができた。日本政府は新たにできた陸地を調査すべく、速やかに研究チームを組織し、その陸地へ向かわせた。
最初は高熱で近づけず、周りから有害物質が放射されていないかの調査のみだったが、一週間もすれば、陸地は冷め、人が降り立つことが出来るようになった。
そこで、有害物質の検査をし続けながらも研究チームは陸地に降り立ち、そこで信じられないものを見た。まるで地球人のような宇宙人、昨日授けると言っていたもう一人のステファニアであるアントネラ・オーフィールがそこには居たのであった。
(こんな三流週刊誌でも書かないデタラメシナリオでいいのかキスカさんよぉ…)
そこで、アントネラを本州へ連れて帰り、トンデモな世界の第一人者である汲広に会わせてみたのであった。
(とんでもないキャラクター与えられた!こんな称号欲しくない!)
汲広は奇跡的にも今までは叶わなかったアントネラとの意思疎通に難なく成功し、トンデモな状況を少しでも早く収束させたい日本政府は特別立法を定めた。
1.アントネラの日本人としての戸籍及び住民票の作成。
2.新しい大地は日本の領土とし、アントネラが所有する。しかし所有地の税金は免除とする。
3.汲広とアントネラの結婚を認可。結婚した時点を以て成人と見なす。
4.汲広とアントネラの住居を日本国が提供する。
5.汲広とアントネラ、無制限の重婚の許可。
6.その他詳細や不足分は省令にて。
なお、この法案は、衆議院本会議、参議院本会議をとうの昔に全会一致で可決、成立されており、即時発行であったため、もう完全に有効になっていたりする。
(………
何てことしてくれたんだ!キスカのオッサン!
他はありがたいし今後の行動がしやすくなるため異論はないが、3.の16才同士での結婚の許可とか… 特に5.の”重婚の許可”って何だよ!しかも無制限って!要るのかよ!必要なのかよ---!!)
汲広はここまでのウソ記憶を思い出し、椅子の上でプルプルしていた。30分くらいそうしていたであろうか。汲広は諦め、受け入れた。そして少ない気力をもって続きのウソ記憶を思い出す。
周りの大人達の執拗な説得により、汲広とアントネラは婚約者同士となっており、結婚秒読み段階。当人二人は家族と共にとても喜び、周りに感謝した。
披露宴は首都の高級ホテルの大広間と決定されており、テレビでの生中継もセッティングされており、日本国民のみならず、世界から楽しみやら羨望やら… とにかく好奇の眼差しで注目されており… 退路は全て絶ってやったわ! by.キスカ
(うぎゃぁーーー!!!)
汲広の心中を全く無視し、外堀はこれでもかというくらい完全に埋められてしまった。汲広はもう、続きを思い出す気力も無くし、そこで1時間ほど呆けていた。続きを思い出さなかったことを後悔することになるとは考えるゆとりも何もない汲広なのであった。
汲広がようやっと復帰して自分の部屋から出たところでふと、普段使われていない物置部屋のドアが開いた。
そこから出てきたのはステファニア ― アントネラだった。
白のロングスカートのワンピースに胸元に縫い付けられた小さめの青いリボン。以前のように、少しふわっとした感じの印象の服で、少し赤みがかった茶色でポニーテールにした髪で、髪を束ねたリボンも青、神秘的な青い瞳も健在だ。
あの、闇のミーティングルームでは見える角度が決まっておりしかも話し相手というか、ほぼ一方的に話すのはスキカであったため、チラ見する程度であったし、リンクしたときにはアントネラ自身の目で見ており、鏡なども見なかったため、リアル3次元のフル3Dの彼女を見るのはこれが初めてかも知れない。
会った瞬間ドキリとした。やはりスタイルは抜群で、何と言おうか、その、柔らかそうだった。
「…いつまで見てるのよ。そんなに珍しい?」
最初は視線が泳いでいたアントネラも、5分もじっと見つめられるとさすがに何か思うところがあるらしく、そんな不満を漏らしていた。
「何だか不安そうだね。あの、情報操作の件かい?僕の部屋で話さないか?」
汲広は部屋に招き入れ、アントネラも部屋に入ってくる。汲広はテーブル備え付けの椅子に座り、アントネラはベッドに腰掛けた。二人向き合った状態で、さらに汲広は話し出す。
「唐突だよまったく… あまりにも筋書きがデタラメすぎて、なかなか納得できないよな」
「この世界でも荒唐無稽の話だったんだ… ちょっと安心した。」
二人うつむいて赤くなる。しばし沈黙が流れる。そしてまた汲広から話し出す。
「そ、それにいきなり婚約だの結婚だなんて… いくら何でも急すぎだよな?」
「私はそれは平気。親からいきなり顔も見た事のない相手と政略結婚だって覚悟していたし。だってこれでも貴族の娘だもの。それより少しは気心の知れた汲広が相手で良かったと思っているのよ」
二人はまたうつむいた。二人は揃って右斜め下を見ている。さっきより顔が赤くなっている。またも沈黙が流れる。辛抱たまらなくなり、また、汲広が話し始める。
「俺の事どう思ってる?」
「えっ?」
またも沈黙するが、互いに真正面から相手の目を見つめる。
「俺の事好きか?」
「あ、あの…」
「好きかって変だよな。まだ会って日が浅いわけだし分かんねぇよな!」
しばし沈黙。すると、今度はアントネラから
「す、好きよ。 友達程度にはね」
しばし沈黙。汲広は顔を下へ向けホッとしたように
「そうか」
それだけ言うのであった。
そして、二人は家族の待つリビングへ下りるのであった。
*
「遅いぞ二人とも」
「二人で朝っぱらからおっぱじめてるんじゃないかと思ったよ」
「「なっ!」」
いきなりの妹からの先制口撃であった。
「お… おっぱじめるって何かな?」
「小さい、それも女の子の口から言わせるつもり? これでもオブラートに包んだつもりなのよ? せ…」
汲広は慌てて妹の朝里の口を塞いだ。もう十分だ。もう十分通じた。妹の口からそんな単語は聞きたくなかったのである。
「ちぇっ。いつもは周囲の目も気にせず二人だけの空間を作ってラブラブなのに、何で今日に限ってそんなに他人行儀なの?
よそよそしいの?
何だか今日は変だよ」
(あのスキカの野郎… どこまで自分の好き勝手をこの世界に振りまいているんだよ!)
*
最初はアントネラは戸惑っていたものの、段々と馴染み、徐々に自然体になっていった。汲広は順応性早いなぁと感心していた。その後は何事もなく順調に、ほっこりとした家族の一家団欒を味わう二人であった。
お読み下さりありがとうございます。
地球や日本、リアルな世界とこの話での世界観は同一ではありません。また、ぷい16が理想とする世界観でもありません。フィクションとして楽しんで頂ければ幸いです。