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私はサクラがキライだ。

作者: 良い色

サクラがキライな私が今、抱える思い。

彼とのコレからの事…

私はサクラがキライだ。


日本人はとにかくサクラが好きだ。一瞬で咲いて散る儚さや、花びらが舞って散りゆく姿も含めて愛おしさを感じている。


私もあの薄桃色の花が咲き乱れる姿は感動するし、花びらが舞った後の桃色の道が踏み汚れていく姿に切なさを覚える。だけど、キライだから仕方ない。


『明日、公園行かない?天気良いしさ。』

正樹から電話があった。正樹とは、学生の頃から付き合っていて、社会人になった今でも関係は続いている。正樹は小さな機器メーカーの営業マンで、私は銀行勤務。お互い離れる事なく5年続いている。

『また公園⁉︎』

『そう、緑地公園。天気も良いしさ。サクラ、綺麗だし。』

カメラが趣味の彼はいつも、片時もカメラを手離さない。撮影と称して夜も出かける。自称フォトグラファーだ。撮影の後、いつも彼はスマホでつぶやく。


『昨日の夜、撮影したんじゃなかったっけ?』

『うん。昨日も営業の合間に行ったよ。でも、また表情が違うしさ。行こうよ。』

ちゃんと仕事してるのかなぁ…と心配になるくらい。実際に銀行勤務の私の方が給料も高い。

『うん。わかった…。じゃあ、10時ね。』


翌日、天気は良い。陽射しも強く、暑いくらいかなぁ…と思いながら用意をする。窓を開けると春の風が吹きこみ、気持ちが良い。

そんな、春うららかな陽射しと反比例して私の気持ちは浮かない…

スマホが鳴る。正樹だ。


緑地公園は車で30分くらいの距離にある。久々に会う正樹は車を運転しながら、うれしそうにひとりで話をしている。

いつも話題はSNSの事。「いいね」の数がいくつだったとか、あのコメントって、撮影のポイントを知ってる良いコメントだ…とか。


昨日、あまり寝れなかったので、少しぼぉーっとしている頭の中、わたしは考えていた。顔の見えない人との繋がりを大事にする正樹の気持ちが分からない。つぶやきが、自分の目で直接見えない、虚空の空間で独り歩きする。どんな人がどんな顔をしてコメントを書いてるんだろうか…誰がために写真を撮ってるのだろうか…


昔の人は写真を撮ると魂が抜かれると思っていた。今なら笑話だけど、得体の知れないモノへの畏怖心だろうか…


昨日の夜、寝れない中で観たテレビではフィルムの時代、戦場にカメラ片手で乗り込んだカメラマンの映画をやっていた。銃弾が飛び交う中、フィルムは失敗できない。1枚に魂を込めて戦っていた。そこにある真実を撮すために。

でも。今やデジタルで、失敗を恐れずに何枚も撮れる。誰でも1枚は自分の写真に出会えるように思う。だけど、そこに魂は入ってるのだろうか…


『おお、やっぱり今日が満開だ。やっぱ、俺の勘は冴えてるわ。』

歩くたびにカシャカシャとシャッター音が響く。

『やっぱ、桜は良いよなぁ。今年も賞とれっかもね。』


私が寝れなかった理由は他にある。昨日、気になる職場の先輩と2人っきりになり、思わず「好き」と言ってしまったからだ。

彼は暫く黙っていたが、優しく微笑みながら『俺も好きだよ。』と言ってくれた。


彼は仕事に一生懸命だ。残業、残業…。人が嫌がる仕事も引き受ける。私の仕事にも目配せしてくれる。失敗した時も話を聞いて励ましてくれた。

何で優しくするのかって聞いた時、『わろてる顔が好きやねん』とハニカミながら関西弁で言ったくれた。

そこに実態がある。なんだか落ち着く。


桜は満開で綺麗だった。花をよく見ようと近づいてよく見ると、枝と枝の間に蜘蛛が巣を張っていた。花を見に来た人はこんなところ、見ないだろなぁとなんだか可笑しくなって笑ってしまった。

『なんだか。良い写真が撮れそうだなぁ。夜にアップするか。』と、隣で彼がフレームを除きながら呟いた。


彼のフレームの中の世界が、蜘蛛の巣みたいな空間で広がっていく。それが虚空の空間に価値を生み出すのだろうが、実態のない空間に私の場所はない。

私はただ、私にだけ呟いてほしい。『来年もまた、見に来ようね』って。


『やっぱり、サクラは嫌いだ』、いや、『やっぱりサクラ、キライやねん…』そう呟いて私は笑った。やっぱり関西弁は難しい。今度教えてもらおう…。

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