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あおいと俺  作者: FATMAN・BAGGIO
7/22

【あおいとの約束】

水着選びも終わって、二人でお昼ご飯を食べ、少しゆったりしている時間が流れていた昼下がり。


あおいちゃんが不意に


【あおい】

『恵君泳げないの?』


いきなりそう聞いてきた。


【恵】

「いや、カナヅチじゃないんだ、だけど小さなときに色々あってね」


あまり多くは語らず、ありのままの事実を話す。

あおいは何故かものすごく悲しそうな顔をした。


あおいはものすごく海が好きなのは午前中でよく分かったし。


もしかしたら海が嫌いな俺に対して何か良くない感情を抱いているのかもしれない。


そんなことを一瞬想像してしまう。


【あおい】

『もしよかったら』


【あおい】

『何で苦手なのか話してくれない?』


あおいがそう促してくる。


正直迷った。

怖いとかそういった勘定を女の子に話すのは気が引けたし。


心のどこかであおいの前ではかっこつけたいみたいな感情も芽生えていた。


それでも、そんなことをいましてしまって、海に行ってから、いつもどおりにパニック状態になって海にたっていることすらできなくなってしまったらどうしよう?


そんな心配と、男としてのプライドが同居している心中。


少し悩んだあとで、俺は素直に話すことを決意する。


【恵】

「俺は小さなころ、どんどん沖のほうまで泳いで行ってしまうくらい、海が好きな男の子だった」


そうやって少しずつ語り始めるとあおいは熱心に聞き入っていた。


スケッチブックにコメントも書かず、ただ頷いている。


そのまじめな様子を見ながら、俺は話を続ける。


【恵】

「でもそれがが変わっちゃったのは、小学校のとき、少し泳ぎを覚えて、浮き輪なしでも沖まで泳げるようになってからだった」


【恵】

「ある日、俺は波にさらわれた、そして岸に流れ着いてたそうだ。」


【恵】

「そんなに小さくもないときだったから、泳ぎ始めたのも覚えてたし、実はそのとき海水浴場にはられているサメよけ用のフェンスを越えてまで沖に行ったのも覚えてるんだ。」


【恵】

「でも、そのフェンスを越えてからぜんぜん記憶がないんだよ、記憶を失う直前、大きな波に飲まれて、けっこう深くまで沈んだのは覚えてる、そして気がついたら、海水浴場の救護テントで目を覚ましたってのが俺が海を怖がる理由かな」


そう話し終わる。


自分でもみっともないと思うくらい。

声が震えていた。


そんな怖がりながら、昔のトラウマを話す俺のことを、あおいは優しく受け止めてくれた。


震えている俺の手を握ってくれた。


震えが止まるまで、優しく、しっかりと握ってくれた。


そして俺の手の震えが止まってからあおいがゆっくりとスケッチブックに何か書き始める。


何ページもわたって、俺に伝えたいことを書いている。


【あおい】

『よかった』


そのままもう一枚めくって話を続ける。


【あおい】

「海が完全に嫌いなんじゃないんだね」


そして何枚もめくりながらあおいが話を続ける。


【あおい】

『それだったら明日は、二人で手をつないで泳ごう』


【あおい】

『小さなころは泳げたんだもん、きっと大丈夫』


あおいのその言葉を見たときに、自分はものすごく嬉しい気持ちになった。


みやはそれ以来女友達と海に行くようになったし、俺は自然と海には行かなくなっていた。


でもここまでしてでも、俺を海に誘いたいと言うあおいの姿勢がすごくまっすぐに見えた。


断るのもとても申し訳ないし、弱音を言うのもダメだとは分かっていた。


【恵】

「それでも怖いんだ、また波にさらわれたらって、足の届かない深い場所にまた沈んだらどうしようって」


我慢できずにそのまま心の中に溢れている恐怖心を口にする。


それと同時にまた体が震える。


震え始めた体をあおいちゃんは優しく抱きしめた。


あおいちゃんのあたたかい感触が背中に触れた瞬間。


心の中の恐怖心が引いていく。


それとは逆に何か懐かしくてとってもあたたかいこの感覚。


【恵】

「あおいちゃん、ありがとう、なんだか落ち着いたよ」


また何かを書いているあおいちゃん。

その様子をただ眺める。


【あおい】

『深いところが苦手なのは分かったよ』


【あおい】

『それじゃあ、浅いところで一緒に泳ごうよ』


【あおい】

『足がついていても』


【あおい】

『怖いときはわたしが手をつないでてあげるから』


【あおい】

『いっしょにおよごう!!』


そこまで言葉を見て、あおいは俺といっしょにおよぎたかったんだと

思い知らされた。


そこまでしてあおいが見せたいものって何なんだろうと思いつつ


【恵】

「ほんとうに?それだったら泳げるかも」


泳ぐ気になっていた。


言ってしまったあとで、明日海に入ってからものすごく怖くなったらどうしよう


そんなことを心配してしまう。


【あおい】

『約束』


心配をよそに、あおいはそう書いたスケッチブックを見せると


小指を差し出してくる。


少し戸惑いはしたけれど、自分も小指を絡ませる。


明日は二人で、足の届くところで泳ぐと言う約束がこうして交わされた。


約束してしまった後悔と言うよりは、何故かわくわく感のほうが大きかった。


嬉しそうにしているあおいはそのあと


【あおい】

『バタ足はできる?』


とか


【あおい】

『水に浮くときは力入れちゃだめだよ』


とか


【あおい】

『明日はわたしにつかまってればだいじょうぶ』


などなどご機嫌だった。


そういえばあおいはこの家に来てから、俺に色々教えられてばかりいたし、俺に何か教えるのは楽しいのかもしれない。


俺も、お香のことやソフトクリームのこと。


ご飯のことやテレビのことをあおいに教えるのが楽しかったし。


あおいもその感覚なのかもしれない。


上機嫌なあおいの表情は見ていて和んだし。


あおいに抱きしめてもらったり手を握ってもらったりして、恐怖心がかなり落ち着いてきている。


トラウマから開放された清々しい気分で少し冷静になって考えてみる。


明日は水着姿のあおいと二人っきり、手をつないで水泳教室。


なんだかとっても嬉しい気分になってきた。


確かに海に入るのは怖いんだけど。


このあおいちゃんが手を引っ張って水泳を教えてくれる。


そんな状況は今まで経験がないし、どうなるのかな。


明日の海水浴があおいちゃんの提案により。


楽しみに変わってしまった。


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