【あおいとして】
わたしは瞳を閉じる。
心の中は、今すぐにでも逃げ出したいくらいの恐怖と、生き残って、恵君と永久に暮らしたい。
そんな気持ちが入り混じっていた。
目を閉じて、覚悟を決める。
この場でキスするのを拒まれたらわたしに残された時間は、もう無い。
顔に徐々に近づいてくる、恵君のぬくもり。
ぬくもりが近づくにつれてテレーザの言葉が私の頭の中をよぎる。
【テレーザ】
「このキスには条件がある、それは、互いが互いを愛していると言うこと、その条件が守られないときは」
人間のあおいとして過ごしたこの一週間。
いろいろなことがあった。
陸の暑さに耐えかねて倒れてしまった。
そんなとき、わたしを運良く恵君が助けてくれた。
家でお世話までしてもらった。
次の日には商店街にお買いものにも連れて行ってくれた。
そこで食べたソフトクリームはおいしかったし、お香というのもとってもいい匂いだった。
【テレーザ】
「どちらかの気持ちに嘘偽りがある場合は、そのときは…………」
それから、恵君が海を怖がっていることを知ったときはショックだった。
せめて、罪滅ぼしをしようとして、無理にでも海に連れて行った。
みやと水着を選んだり、帰ってからケーキを食べたり。
みんなで行った海水浴も、恵君の泳ぎを上達させるための二人きりの海水浴も。
全部、全部、楽しかった。
もう一度、恵君が泳げるようになって、本当によかった。
恵君が海を愛する人であって欲しい。
その願いに少しでも近づけたと思う。
【テレーザ】
「海の泡となって消えてしまうのです」
その言葉を思い出して、私の心臓は爆発する寸前だった。
速いテンポで、ドクン、ドクンと激しく脈打っている。
そして昨日、恵君に告白した。
本当は、自分がなくなってしまうのが。
泡になって消えてしまうのが。
怖くて、怖くて、しかたなかった。
そんなときに、苦しさが和らげばと思って。
少しでも胸の中に秘めている感情を出していこう。
告白していた。
いきなり想いを伝えたわたしを受け入れてくれた。
恵君の気持ちを全身で感じたとき。
本当に、本当に、この人を選んでよかった。
心からそう思えた。
そして今、わたしのことを優しく、抱きしめてくれている。
やさしい人に抱きしめられて、最高の瞬間だとわたしは思う。
そして……大好きな人の唇が私の唇に触れる。
やわらかい恵君の唇が触れた瞬間、今まで以上のぬくもりが心を満たしていく。
これほどの幸せを感じながら。
心の中のが、あたたかさで満ちている、こんなに、幸せな瞬間になら。
たとえ、泡となって消えたとしても…………わたしは、幸せだ。




