ちいさなピタとおにーちゃん・1
ワタシはおにーちゃんと、おるすばん。でもでもちっとも、さみしくないよ?
山に二人だけでお留守番のピタ。雪山では単調な毎日になりがちですが、おにーちゃんは退屈させまいとピタを山へと連れ出しますが……?
ひらり、ひらひら。はら、はら、り。
やだなぁ、ことしも冬がくる。
はらりはらりとおちてくる、しろくてつめたい雪つぶを、うんざりしながらながめてる。
雪がふるとイノシシやシカはやまにかえるし、クマやリスもいなくなる。里までおりて行かないと、なんにもないから困っちゃう。でも、そんなときはおにーちゃんが、足のうごかないワタシの代わりに、行ってくれるけど。
「ピタ!! 湖に氷が張ったぞ!!」
かおをまっかにしてコーフンしながらおにーちゃんが、わたしの部屋にとびこんできた。
「おにーちゃん! れぃでぃの部屋にノックもせずに、ズカズカはいってこないでくれるかな?」
わたしはなべのなかに入れた薬草をすくい上げてゆびさきで摘んで、もきゅもきゅしてから、はなして戻す。こーするともっと効くようになるよ、っておかあさんが良く言ってた。
「……わ、わりい……でもよでもよ!! 【氷上釣り】が出来るよーになったんだ!! ピタも行こうぜ!!」
はぁ……おにーちゃんは、とってもあわてんぼう。だって、ピタがふゆの間は薬草をことことして、おかーさんのかわりをしないとダメなこと、わすれてるんじゃないの?
ワタシがだまってなべとにらめっこしていると、うしろからおにーちゃんがつめたい手で頬っぺたをぎゅ、ってサンドイッチした。
「……ふ、わああああああああっ!? つ、つめたいからやめてもらえないかなッ!?」
ワタシがあわあわしながら怒ると、おにーちゃんはニッコリわらいながら、
「たまには気分転換しとかないと腐っちまうぜ? ピタは真面目過ぎっからな!!」
そういって、ワタシのあたまをくしゅくしゅとなでた。だかられぃでぃの頭は気やすくさわらないでほしい!! それに、そんなされるとシンゾーがばくばくしちゃうから……
おにーちゃんとワタシはおかーさんがちがう。おにーちゃんはがっしりしてて、コボルトらしくて元気いっぱい。ワタシは……よくわかんない。たぶん、おにーちゃんと、ほかのひと。
だから、じゃないよ!? だから、じゃないけど……ワタシは、おにーちゃんを……
「ピタ!! 雪ゾリ出してきたから早く行こーぜ!!」
あー、もう!! せっかく……なべが、いー感じになったのにぃ!! もーすこし空気よんでほしい!!
……でも、やっぱりうれしい。だって、雪ゾリに乗る時は、おにーちゃんが体でワタシをおさえてくれるし、乗せるときにおひめさまダッコしてくれるし……
「よいしょ……ピタ、少し重くなったか?」
「おにーちゃん!! れぃでぃのたいじゅうをせんさくするのは失礼じゃないかなッ!?」
ワタシとつえをソリに乗っけたおにーちゃんにそんなことをいわれて、ムキになって言いかえしてると、ひらひらとまた、雪がふってきた。雪はきらい。だって、つめたいし積もるし、見あきてくると、つまんないし。
すーっ、と雪ゾリがすべりだすと、きらきらひかる雪がふわふわまい上がって、風がつめたくて頬っぺたがぎゅーっ、てするけれど、雪のなかをおにーちゃんが足やつっかえ棒をつかって雪ゾリを上手にあやつって、少しはなれた湖にむかっておりていく。
「ピタ、そろそろ見えてくるぜ!? スゲーかんな!?」
「あー、そうですかー! ……スゲーのかな?」
ワタシはそっけなく、おにーちゃんにいいかえす。でもでも、ホントはすっごく気になってる!! だって、だって……雪ゾリじゃないと、足のうごかないワタシは湖になんて、ひとりじゃぜったい行けないから……。
だんだん雪をかぶった木がすくなくなって、そろそろ着くかなっておもったら、真っ白いおっきな湖が見えてきた!!
「ふあああああぁっ!! おにーちゃん!! 湖、こおってる!!」
「だろ~!? スゲーだろ!!」
まるでじぶんのてがらみたいにじまんげなおにーちゃんは、うははと笑いながらソリからとびおりて、うしろに載せてた手回しドリルをつかむとうひゃうひゃ言いながら雪をけとばしながら走ってって、ざぐりと湖につきさした。
ぐりがり、ぐりがり。ごごりごり。
ドリルをまわしてぐりがりと、こおった湖に穴をあけると、あっという間に釣りするばしょが出来上がった。
「ピタ!! 今すぐ始めよーぜ!!」
ソリをひっぱって、穴のわきまでワタシをはこぶと、釣りどうぐをとりだして【けばり】をたくさんつけた糸をたらし、ワタシにてわたしながら、
「ほら、コイツを沈めてゆらゆらさせっと、魚がばんばん釣れるかんな!!」
おにーちゃんも同じように糸をゆらゆらさせて、手本をみせてくれた。
「しってるんです! ただ、うまくできるかな……」
おにーちゃんとちがって、毛のないワタシは、まほうは使えるけれど、それいがいは、てんでダメ。おうちにあるおかあさんの本は全部よめたし、まほうも使えるけれど、おにーちゃんみたいに、何でも、なんて全然できない。
「ピタはそーやってすぐ頭で考える!! 何だってやってみりゃいーんだよ!!」
ふっははと笑いながら、おにーちゃんはそー言って、つり糸をあげるとお魚だらけの【けばり】から、ぽいぽいとお魚をはずして雪のうえへと投げていく。
あっという間にお魚は、こちんこちんにかたまって、おにーちゃんのまわりはぎんいろでいっぱい。それを見ながらワタシは何だかゆでたみたいにかっかしながら、でもなんにも言わずに【けばり】をゆさゆさ、あげさげしてたら、
……ぐんぐん、ぐぐん!!
「お、おにーちゃん!? お魚、つれたかなっ!?」
「おっ!! ピタ、いーぜ!! 糸を掴んで引っ張りあげろ!!」
わくわくしながら糸をひくと、ぴんぴんはねながらお魚がいっぱいついてきた!!
「やるじゃんやるじゃん!! ピタ、大漁じゃん!!」
「へっへっへぇ~!! ワタシ、才能あるのかな~ぁ!?」
頬っぺたがあつくなってきたのは、おにーちゃんがうれしそうにワタシをぎゅっ、てしてきたからじゃないよ!? お魚つれてうれしかったからだから、だもん!!
かちんこちんのお魚を、もって来たアミ袋にたくさんたくさん詰めこんで、ワタシとおにーちゃんはおうちにかえる。もってかえってつり下げて、干したりやいたりいろいろしたら、日もちもするし、おいしくなるよ。
ソリはすーすー、よくすべる。おにーちゃんがひとけりすると、まほうみたいに前にいく。まほうみたいに、よくすべる。ソリにはウサギのかわがはってあるから、まえにすすんでピタッてとまる。坂でもピタッ、てとまるんだよ?
冬のあいだ、ふたりでずーっと、おるすばん。ふたりっきりで、おるすばん。
でもでも、ぜんぜん、やじゃないよ? ひとりっきりじゃ、ないからね!
おにーちゃんとワタシで、おるすばん。まいにちすることあるけれど、ワタシはぜんぜん、さみしくない!
春になったら、おかーさん。かならず帰ってくるけれど、ワタシはもちろんさみしくないよ?
だって、おにーちゃん、いるんだもん!! にゃははと笑ってお山にいって、なんでもできる、おにーちゃん!!
……でもね? ワタシがおにーちゃんのこと、だいすきだって、まだいちども言ったこと、ないけども……もしかしたら、おにーちゃん、気づいてるかな? ……いない、かな?
きょうも、おなべがことこと、いってるよ。まいにち、ことこと、薬草にてる。ワタシのしごとはお薬つくり。おかーさんから、ならったしごと。
なんでも治す、おくすりだけど、ワタシの足は、治らない……だからたまーに、さみしくなっちゃうけれど……
「ピタっ!! 今日は天気いーから、仕掛け罠、見に行こーぜ!!」
「だーかーらー!! れぃでぃのお部屋にズカズカはいってこないでくれるかなっ!?」
どばん!! って扉をノックもせずに、おにーちゃんがやって来た。ワタシはまゆをへの字にしながら、お鍋のなかをぐるぐるやって、おこった振りして、ごまかした。
それからワタシは雪ゾリに、おひめさまダッコされて、のりこんだ。うれしくって、はずかしかったから、真っ赤になって、のりこんだ。
冬はさむくてたいへんだけど、おにーちゃんといっしょなら、ワタシはぜんぜん、だいじょうぶ!!
「ピタっ!! 揺れるからしっかり掴まってんだぞ!!」
「こここわいからっ!! おにーちゃん、ぎゅっ、てしなきゃダメだからっ!!」
……たぶん、ぜんぜん、だいじょうぶ……かな?
如何でしょうか、いつもは血生臭い噺ばかり書いたりしてますが、御感想お待ちしております。
登場人物ご紹介。
ピタ→アルビノ系コボルト。犬耳と尻尾以外はほぼ人間。魔法の才能は母親譲り。足が不自由な為、あまり活発ではないが、おにーちゃんに引っ張られて今日も冬山へと連れて行かれます。
おにーちゃん→純血系コボルト。ほぼイヌ。細マッチョ。父親譲りの強烈な個性で今日もピタを引っ張り回す。
おかーさん→純血系コボルト。なんとなくイヌ。二人の母親。おにーちゃんの父親と早く死に別れた後、ピタを引き取る。出稼ぎで二人を留守番させる事に罪悪感を抱きつつ、自立心を促す為に敢えて放任主義。ピタの気持ちを察しているが、まぁ、気にしちゃいけないのである。