序
初投稿です。ちまちま更新がんばります。
都の南西に位置する山村に、子を亡くした夫婦が住んでいた。夫婦にはなかなか子が授からず、念願叶ってやっと授かった娘は、七つの歳を迎える前に、流行り病にかかって亡くなってしまったのだ。心優しい夫婦は、たいそう悲しんだ。暗い土の中に葬るのは可哀想だと嘆き、せめて村で一番美しいところで眠ってもらおうと、村の南にある桃の並木の、一番大きな木の下に墓をつくった。そうして夫婦は、毎日桃の木へ通うのだった。
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可愛い娘が息を引き取ってから、幾度、桃の花が咲いては散りを繰り返しただろうか。若かった夫婦の顔にも皺が見えはじめた。それでも夫婦の日課は変わらず続いていた。毎朝、桃の木の下へ通い、毎日の色々な出来事を娘に語って聞かせては、最後に「また明日」と伝えて帰るのだった。
そんなある日、二人のいつもと同じ「桃の木参り」に変化が起きた。並木の中でひときわ大きな木の下─娘の墓の前が、こんもりと盛り上がっているように見えた。
「「?」」
不審に思った二人が近づいてみると、そこには小さな赤ん坊が、泣きもせずこちらをじっと見つめていた。ふと目が合うと、その赤ん坊はぱぁっと花が咲くように笑ったのだった。
周囲を見渡しても、親の姿は無く、機嫌の良い赤子が一人きり。ひとしきり辺りを探してみたが、赤ん坊の親どころか、人ひとり見つけられない。そこで、心根の優しい夫婦のことである、このまま放っておくこともできず、家に連れて帰ることにした。
次の日から、夫婦は赤ん坊の親を探しに、あちらこちらと歩き回った。しかし、村の皆に聞いても、誰もにも心当たりがない。桃の木の辺りに行ってみても、人の姿は無く、途方に暮れるばかりであった。
3日も経つ頃には、赤ん坊に情が湧き、夫婦はこの赤ん坊を手放すことを望まなくなっていた。
なにせ、二人の顔を見ると満面の笑顔を見せるのだ。可愛い盛りの娘を亡くした夫婦が心を捕まれるのは、当然のことだったのかもしれない。
「ねぇ、あなた。この子は、娘の─桃華の墓の前におりました。私にはこの子が、桃華の生まれ変わりの様な気がするんです。」
「そうだなぁ。いつまでたっても親を見つけることもできぬし、わしらの子として育てるのも良いのかもしれんなぁ。」
「そうですよ!そういたしましょうよ。あぁそうとなれば、この子に名前をつけなければ!あなた、何か良い名をつけてくださいな。」
「お前はこの子が、桃華の生まれ変わりの様だと言ったな?それではこの子の名も『桃華』としよう!」
「えっ?でも…あなた、この子は男の子ですよ?」
「あぁ。丈夫な子に育ってもらいたいからな。わざと女名をつけるのじゃ。昔から言うではないか。」
「確かにそんな風習がありますねぇ。」
「そうだろう?今からこの子は桃華だ。元気に育つのだぞ、桃華!!」
こうして桃華と名付けれた男の子は、すくすくと成長していくのだった。
次回から主人公、喋ります(笑)