02.竜に転生
視界は黒一色、肉体は丸く押し込められ、体操座りをしている。
体が微塵も動かない。まるで金縛りにあっているかのようだ。
だが、体は温もりに満ちて、不思議と安心感がある。ずっとこのままでいたい。
俺は死んだのだろう。
首元から血が噴き出たうえで生存できる人間はいない、はず。
よりによって、酔っぱらった親父に勢いあまって殺された。死因はサボリ癖 無念。
親父の名前何だっけ?
なんだか記憶がおぼろげになってきた。
俺は誰だったかな?
ああ、来世があるなら、今度の父親はお酒に強い人がいいな。
上長はサボっても怒鳴らない人がいい・・・少しわがままか。
そして意識は深い闇に落ちていった。
目を覚ましたら、俺は卵の殻から顔を出していた。
また、巨大な竜の顔が俺を覗き込んでいる。
え"ぇ?
「ひぃぃぃ 食べないでぇ」
竜はこう言った。
「おお、生まれたか、我が子よ。この匂いはメスのようね」
衝撃が走る。
俺はメス竜に生まれ変わったようだ。
非科学的な存在、竜がいるってことは、この世界は剣と魔法のファンタジーな感じだろうか。
胸が踊る。きっとこの世界は世知辛くない。
記憶は薄いけれど、元世界の上司も面接官もクソくらえ!
俺は背中に生えた自由な翼で羽ばたくぞー
まずは気になったことを母竜に質問することにした。
「あなたがお母さん?」
「きゃっ、お母さんだなんて初めて言われた。恥ずかしい、やっぱり我が子なのねぇ うふ」
新しいマイマザーは良きマザーのようだ。やさしそう。
「ここはどこでしょうか?」
「この場所は、山と山に挟まれた谷の底。子育ては安全なここでやる習わしなのよ。私たち竜は古くからこの谷のことを竜の渓谷と呼んでいるわ」
母竜の解説が終わり、上空を見上げると、豆粒の大きさの何かが2~3体ほど飛行しているのが見えた。
俺もいつかは飛んでみたい。飛ぶのは人間の夢だからな!
「魔法使えるの?」
「できるわよ、ほら 『ドラゴン・ブレス』」
母竜は空を眺め、口を広げ、空に火球を放った。
おお、すごい。感動して涙が出た。
先ほどまで空を飛んでいた竜がブレスと共に消滅した気がするが、見なかったことにする。
そして最後に気になる質問。
「俺ドラゴンなんですか?なんで俺メスなの?」
「私の娘なんだから、もっと女の子らしい口調を覚えてね。うふふって感じで」
言われるままに言ってみた。
「うふふ」
oh...これは黒歴史だ。変質竜だ。
性別が変わっても心は漢だった。
母竜は穏やかな瞳を俺に向けている。
「トカゲは尾の付け根の太さでオスメスの見分けがつくのです。ドラゴンも例外ではないの。でも、生まれたてのドラゴンは判断できないので、もう1つの裏技を使うのよ」
「裏技とは?」
一体どんな方法で性別が分かるのだろうか。俺すら自分の性別が分かってないのに。
「生まれたてのメス竜はミカンの匂いがするの」
ミカン・・・?
|д゜)