表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
知らないふりをさせて下さい  作者: 樫本 紗樹
後日談とおまけ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/50

おまけ11 愛称

Web拍手の再録です。

【謀婚番外編】の義理姉妹お茶会より数日後です。

後日談3とやや前後する内容です(第二子出産前)。

 練習をして心の中ではエドと呼ぶのに慣れてきたけれど、呼びかける時はエド様と口にしている。エドが私を唯一愛してくれているとわかったから、私もエドの期待に応えたいのに。

 そのうち自然に呼び掛けられるようになれたらいいと思っていたのだけど、あまり猶予がないかもしれない。


 先日のお茶会でサマンサに脅されてしまった。エドと呼ばないと色々な人に迷惑がかかると。エドは公私をわけているから問題はないと思ったのだけれど、私の態度次第で最終的には監禁するかもしれないから、今のうちにエドとの距離をもっと詰めるべきだと。

 そしてサマンサが耳打ちをした言葉に私は悩んでいる。


 エドお兄様にしか叶えられない我儘を言ってあげて。それで満足するから。


 サマンサの言いたかった事は、私が今望んでいる事と一致しているのだろうか。彼女はまだ独身だから、そういう事は詳しくないだろうし違うと思うのだけど、他には何も思い浮かばない。

 しかもこれをエドに言うのは困らせるだけのような気もする。


 私はお腹を撫でた。私がもう暫く我慢すればいいだけの事。だけど私の我慢が周囲の迷惑に繋がると言われると、何が正しいのかわからない。それでもアリスやこの子を巻き込むわけにはいかないから、私が頑張らなくては。

 早く寝室へ行かないとエドが心配するかもしれないし、エドの顔を見て言うか考えよう。



「いつもより遅いから迎えに行こうかと思っていたよ」

「そうですか? 以後気を付けます」


 やはり少し遅かったみたい。考え事をすると動きが止まってしまうのは私の悪い癖だ。もう少し器用になりたいけれど、こればかりは生まれつきだから難しいかもしれない。


 私はエドの隣に座る。エドはヘッドボードに枕を二つ置いてくれて腰掛けやすいようにしてくれる。こういうさりげない気遣いは本当に嬉しい。


「順調そうだね」


 エドが愛おしそうに私のお腹に手を当てる。アリスの時も本当は触りたかったらしいのだけど、出来なかったと言っていた。だから今回はよくお腹に手を当てるし、アリスが一番最初にエドの事を殿下と呼んだ事を根に持っているのか、お父様だよと呼びかけている。


「はい。そろそろ名前をと思っているのですが、何か考えてくれていますか?」


 私の問いかけにエドは柔らかく微笑んだ。


「考えてはいるけど、ナタリーに希望があればそれを聞くよ。ただ響きはレヴィ語にしてもらうけど」

「私やアリスのような共通の名前はいけないという事でしょうか」

「出来たら違う方がいい。私の名前は帝国語だとエデュアールと少し発音が違う。これくらいの差でも構わない」


 シェッドと決別した以上、レヴィ語らしい名前の方がいいのは当然かもしれない。


「それなら任せてもいいですか? 私ではルジョン教関係の名前しか出てきません」


 自分の名前もルジョン教由来だ。信仰心の篤い母がつけてくれた。だけれどあくまでもレヴィ王家の子供なのだから、それは避けなければならない。


「候補をいくつか考えておくから、顔を見て一緒に決めよう」

「はい。宜しくお願いします」


 私は微笑んだ。アリスの時は一択だったようで、実はいくつも考えた上での事だったのかもしれない。実際アリスという名前は似合っているし、きっとこの子も素敵な名前を付けて貰えるだろう。


 しかし言葉遣いを砕けさせるのはどういうきっかけで始めたらいいのだろう? 

 ライラは王宮から出た時と言っていたけれど、私の場合は今更すぎてわからない。こんな事なら向き合った時に素直に聞いておけばよかった。時間が経てば経つほど難しい。


「ところで、今日は何を考えているの?」


 エドの言葉に私は表情を強張らせる。

 なるべく普通にしているつもりだったのだけれど、やはり何か考えている事はわかるのか。他事ではなくエドの事でもひっかかるのか。


「この子に早く会いたいなと思っているだけです」


 エドの視線が痛い。絶対疑われている。私に嘘はそもそも無理なのだ。ここは折角の機会と捉えて言ってしまおう。


「あの、本当は呼び方を変えようと練習しているのですけれど、いつ呼んでいいのかわからなくて」

「言葉を砕いてくれる気になった?」


 エドの表情が明るくなり、私は小さく頷いた。


「迷う事なく今から始めればいい」


 エドが期待の眼差しを向けている。今なら私の我儘を言っても聞いてくれるかもしれない。聞いてくれなくても怒りはしないかもしれない。


「エド、ひとつお願いがあるの」


 言った。初めてエドと呼んだ。何これ、胸の鼓動が高まっておかしくなりそう。

 何故二人目を妊娠しながらこのような事になっているの?


「何? 何でも言って」


 エドの笑顔が今までにないくらい嬉しそう。この表情が崩れるのは嫌。でもお願いがあると言ってしまった以上、何でもないは通用しない。エドは本当の事を言うまで許してくれないから、言うしかないのだ。


「抱いてほしいの」


 エドの表情が驚きに変わった。やはり言ってはいけなかった。だけど寂しい。エドは優しい口付けはくれるけれど、妊娠がわかってからは抱いてくれない。悪阻が酷かった時は余裕がなかったけれど、今は落ち着いているし少し触れ合いたい。


「本気で言っているの?」

「申し訳ありません。気にしないで下さい。もう言いません」


 サマンサの言っていた、エドにしか叶えられない我儘とは一体何なのだろうか。私がずっと我慢をしていたのはこれだけど、きっと正解ではない。


「言葉が戻っているよ、ナタリー」


 もう恥ずかしくて砕いた言葉は無理。エドの視線から逃げるように顔を背けるので精一杯。何も言い訳が思い浮かばないから、いっそ黙って寝てしまおうか。

 そう思っているとエドが優しく抱きしめてくれた。


「ナタリーからその言葉が出てくるとは思っていなかったから驚いただけで、私も触れ合いたいと思っていたよ」


 エドの優しい声に私は首を回して彼を見る。エドは嬉しそうに微笑んだ。


「私の我儘を聞いてくれるの?」

「私とナタリーの要望が一致したのだから、我儘ではないと思うけれど」


 嬉しくて涙が出そうになるのを必死に堪えていると、エドは私に優しく口付けしてくれた。


「ナタリーに無理をさせたくはないから、異変があったらすぐに言って」

「ありがとう、エド」


 私は嬉しくてエドを抱きしめる。エドは嬉しそうに微笑みながら深い口付けをしてくれた。




 その後、簡単にエドと呼べるようになったかというとそうでもない。私はエドとエド様を混在させ、言葉も砕けた表現と敬語が混在し、完全にエドの希望の状態になるのに、これから約半年を要する事になる。

 それでも根気よく付き合ってくれたエドには感謝をしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手
宜しければ拍手をお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ