おまけ5 スティーヴンとリアン その3
アリスが生まれて約半年過ぎた頃、エドワードが休憩中の執務室
「殿下の溺愛が想像以上だけど、あれは何?」
「何、とは?」
「前まで俺が子供について語っている時はすごく冷めた目で見ていたのに、今はアリスの方が可愛いの一点張りだよ? 親馬鹿過ぎない?」
「殿下もリアンも大して差はないと思うが」
私は呆れた顔をリアンに向けた。
子供のいない私からしてみれば、どちらも同じにしか見えない。確かに殿下があそこまで溺愛するのは想定していなかったが。
「だけど夫婦間は大違いだよ。俺は他の女性に声を掛けないからね」
「リアンの奥方は変わっているからな」
「妻の悪口を言うな! 何の関係があるんだよ!」
まさか気付いていないのか? リアンの嫁はとても嫉妬深く、リアンに近付こうとする女性全員に牽制をしている事。そんな事をしなくてもリアンは元々もてないのだけど、何かを勘違いしている。
「奥方から以前、ナタリー様が外出する際の供からリアンを外して欲しいと言われた」
リアンは訝しげな表情を私に向けた。
「……いつ?」
「いつだったかはっきり覚えてないくらい前の話だ」
「あぁ、悪い。彼女はたまに誤解をするから」
「リアンがしっかりしないと、ダニエルは一生独身になるかもしれない」
「何でそこで弟の名前が出てくるんだよ」
リアンはわからないと言った表情をしている。これは素でわかっていない。
「奥方がかなりの女性に牽制をしている。兄嫁が怖いのは嫌だろう?」
「えぇ? そうなの? ダニエルはただでさえウルリヒ殿下の側近で地味なのに?」
「顔のつくりならダニエルの方が派手だけどな」
「それは気にしているから言わないで! 俺が平凡な顔なのは知ってるから」
気にしていたのか。奥方が美人だから余計に目立つし。しかもその奥方がリアンに惚れ込んでいて、扱いが難しい。女性がリアンを誉めれば気を引こうとするなと怒り、貶せば失礼と怒る。あれは質が悪い。恋愛結婚というのも果たして幸せなのかわからない。
「彼女に言っておくよ。彼女が孤立するのはスミス家にとっても良くない」
「公爵夫人になるのなら、もう少し立ち回りを考えた方がいいだろう」
「難しいようなら領地に引っ込むよ」
「殿下を置いて王都を離れるのか?」
リアンは視線を伏せた。
リアンは殿下が好きで、文句を言いながらも側近の仕事を楽しんでいる。愛妻家でもあるが、領地に引っ込むのは本望ではないはずだ。
リアンは考えがまとまったのか、こちらに力強い視線を向けた。
「殿下なら話せばわかってくれると思う」
「仕事が増えて困るから、出来たら奥方を説得する方向で頼む」
私がそう言うとリアンは嬉しそうに微笑んだ。
「俺と離れるのは寂しい? そっか、それなら彼女を説得するか」
「寂しいとは言っていない。仕事が増えるのが嫌だと言った」
「照れ隠しはいいよ。そっかー。俺は愛されてるなー」
人の話を聞かないリアンは嬉しそうだ。
確かにこの気楽な人間が王宮から去るのは惜しい。公爵家らしからぬ柔らかい雰囲気を纏いながら、立場を弁えるべき時はきちんと振る舞える。平凡そうに見えて仕事は出来るし、敵を作らない。
殿下の周りに、このような人間がいるのといないのでは大違いだろう。
「休憩はそろそろ終わりだ。仕事に戻ろう」
「ほーい」
返事にやる気がない。だがこういう所は憎めない。この性格は絶対に得してる。正直羨ましい。




