はじめに――その少年について
以前――
ずいぶん昔の話になるが。
牧村洋一少年に関するお話は、つらつら述べたことと思う。そのお話は、ちょいと奇怪で、少しく奇抜で、だから終わりまでお付き合いしていただけたか、心許なく思っている。いや、やっかい至極。
そのお話が、そんなふうに奇妙であったのは、洋一少年のおかれた状況によるものだが、少年たちに関するお話は、あれで終わったわけではない。なるほどエンドマークの鐘こそ鳴ったが、洋一少年にかかる苦難は、あの事柄が最後だったわけではないし、むしろあれからの方が大変であったのだ。
さて、くだんの少年は小学四年生で、体格も普通なら容姿もふつう、別段とりたてたところのない少年だった。住んでいるところは古い古い洋館で、そいつを私立図書館にしたてなおしている。が、両親はいない。殺されてしまった。
洋一は自分の親のことをふつうだと思っていた。それまで普通に暮らしていたし、自分自身が取り柄も特徴もない、普通の少年であったのだから当然だ。
だけど、中間世界からやってきたという、ほらふき男爵と侍の親子が、彼のすべてを変えてしまった。
彼に関わる秘密を、話してしまったのだ。
彼の両親が、本の世界を守ってきた古い古い一族の生き残りで、伝説の書という、 これも奇怪な本を守ってきたこと。その本を狙う凶悪な敵がいて、二人はその人物に殺されてしまったこと――
洋一はその敵――ウィンディゴの力を削ぐために、本の世界に入り込んだ。ウィンディゴは、本の筋書きを悪い方に変えて、自らの力に変えていたからだ。洋一が宿敵の目的を阻止するべく、選んだ本は、かの「ロビンフッドの冒険」だった――
平凡な少年が、いかにして物語の主人公となりえたのかは、すでに述べた。
洋一は奥村少年と協力して、数々の危機を脱しはした。ロビンの命も救ったし、物語も正しい方向へと導いた。ロビンたち森の仲間が勝利して、本の善は守られたのだ。
だが――
洋一少年は、目的の一端を果たしたけれど、真の目的となるとどうだろう?
宿敵との決着はまるでついていない。洋一はそれからもウィンディゴに狙われ続けたのだし、狂った物語はごまんとあったのだ。
いや、くどくどと申し訳ない。語り残したお話がたんとあるのは、わたしの不徳と致すところ。
物語の幕は、開かなければならない。
あれよりも奇怪面妖なお話になってしまうことは、もうしわけないが。