それからのこと
「うわーん、リリィ、ハイディちゃん、卒業おめでとう!!私はあと半年がんばるよぅ~~!」
卒業式の日、マチスが号泣していた。同室のリリィとハイドランジアが揃って卒業してしまうのだ。
「結局ハイディちゃんは本当に一年で卒業しちゃうのね~~」
「しかも主席。すごい」
「いやぁ、ははは。魔術は得意なので!」
思い返せばこの一年、色々あった。思い出すだけでウンザリするようなことが沢山だ。騎士校の生徒に絡まれた回数も十や二十ではきかない。腕試しの道場破り感覚でやってきて迷惑この上なかった。最後は星騎士バルムンクまで出てきたのだ。勝ったけど。
「というわけで母親に許されてやってきました魔女の国。古代魔術を教えて下さい!」
「おお、お前は私の孫か!良かろうみっちり仕込んでやる!」
「はい!………極めました!」
「もう教えることは何もない!」
学院を卒業後、半年ほどかかる修行を尺の都合でなんとなく感覚ですぐに古代魔術を習得したハイディは、王様に呼ばれて謁見することになった。
「おお、勇者の娘よ、よく来た。どうだ、近衛魔術師団に入らんか?」
「いえ、研究職志望なので遠慮します。一度学園に戻るつもりです」
「なるほど、本来ならば引き止め工作の為にひと悶着あるところだがワシは物分りのいい王様なので別に何もしないぞハイドランジア、頑張れよ」
「はい!ところで、その杖に埋まった魔石はもしかして…」
「そう、お主の父が回収した魔王の魔石じゃ。絶対誰にも譲るつもりはなかったがお前ならいいだろう、理由なく渡すのは不味いのでワシとジャンケンして勝ったらやろう。ワシはグーを出すぞ」
「はい、パーです。もらっていきます」
これで心配事が一つ減った。この魔石が魔王転生の秘密だと気づいた何者かに奪われて大変なことになるはずだったが未然に防げて満足だ。
学園に戻ると、廊下でばったりマヤ、と会話しているミラに遭遇した。
「あれ、お前まさかミラか!?」
「そんな!もしかして勇者の小憎たらしい娘が師匠なのですか!?本来ならば謎のすれ違いが発生して合えないはずの師匠にこんなにあっさり!?」
「大人の事情ってやつだな」
というわけで、再会を果たしたミラから通信機を受け取ってカルマンに連絡。すぐに合流して新生・新生魔王軍を旗揚げすることになった。勿論秘密裏に、だ。
「色々な実績を積み上げて学院内での地位を確立していくところだろうけど、時間がないので一気に最高責任者になります。アトラス学院長やトゥール教頭には偶然にもご不幸がありまして、異例ながら王命により私ハイドランジアが中央魔術学院の学院長になりました!」
学院長になったハイディは昔の研究をそのまま合法的に引き継ぐために、近衛魔術師団で秘密裏に行われていた魔獣に対する生体魔術実験(非合法)を明るみに晒し王を糾弾、するのではなく、手を廻して合法化する手つづきを進めた。これには周辺の二大国が大いに反対してきたが無視だ。
「やれやれ、勇者の娘は剛腕だのう」
王様もタジタジだ。
一年も経つ頃にはかつて魔王時代にやっていた研究の大半を合法的にやれるようになっていた。
「なんと!魔王の研究室に保管されていた魔石は同じく研究室についてあったこの魔術具と組み合わせると、魔王が記録した情報を抜き出せるのか!」
と、時にはわざとらしい発見(魔石はミラが保管していたもの)を駆使して魔術の基礎研究を横流ししさえした。これによって王国の魔術研究は百年進んだ。
おかげで王国の魔術の技術は他の国から群を抜く形となり、脅威を感じた二カ国の同盟軍から宣戦布告を受ける。
「流石に数の脅威ってのがあるッスからねえ、本当ならそれなりに苦戦するところッスけど、こんなこともあろうかと作ってあるンスよ、魔術を操るゴーレム、ホムンクルスを!」
ホムンクルスは都合のいいことにアークくまにも匹敵する強力な魔術を操り、ゴーレムと同じく術者の意のままに操れる便利な生体兵器だった。それを養殖魔獣の魔石を使って量産した結果、あっさり同盟軍は壊滅、逆に王国が占領しそのままの勢いで中央大陸全土を掌握するに至る。
「もう面倒だから王位もお前に譲るわ」
「ありがとうございます」
こうして王位についたハイディはひたすら研究にあけくれていたが、ある日突然王都の空が魔獣に埋め尽くされた。
「ふはは、なんの脈絡もないが裏大陸を支配する我ら竜人が何千年かぶりに中央大陸に帰還したぞ!なぜかニンゲンとかいうへんな生き物が我が物顔で闊歩しているのが気に食わないから焼き払ってやる!」
「せっかくここまでやったのに邪魔されてたまるか!くらえ、古代魔術を組み込んだ超極大魔術!《地獄の門は開かれた》!」
「ぐ、ぐわー!ニンゲンたちより遥かに進んだ魔術文明を誇る我らには魔術など効かぬと思ったけどそんなことはなかった!!遺跡に隠した我らの秘密も無駄になったぞ!!」
なんとか先触れたちを追い払ったハイディであったが、その何万倍もの竜人達が中央大陸へと集まりつつあることを知る。
「キツい戦いになるけど仲間がいれば大丈夫だ!」
「さすが俺の娘だ、よく言った!もう俺なんかでは手の届かないところに行ったな。俺、元勇者だけど俺の子供が強すぎる!」
タイトルを回収したところで、荒波打ち付ける崖を背景に外套をたなびかせ最後の戦いへと向かう。
ハイドランジアの魔術が世界を救うと信じて。
ご愛読ありがとうございました!
残念ですがこれにて打ち切りEndです。
やってみると夢野カケラ先生がどれほど偉大な漫画家かわかりますね。




