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あれれー?こんなところに迷宮の入り口がー!

 夜。


「今日は慣れない作業で疲れました…」


 ヨロヨロと天幕に転がり込んで、即席の寝床にぽてんと転がるやすうすうと寝息を立て始めたハイディを、リリィとマチスは少なからず意外に思った。


「ハイディちゃん、絶対洞窟に行きたがると思ったんだけどなー」

「うん。疲れて寝ちゃったね」


 毛布をかけてやりながら、ついでに頭を撫でてやる。狸寝入りを疑ったが完全に眠っているようだ。


「どういうこと?」

 ハイディの普段を知らない女子達が首を傾げている。


「ハイディちゃん、何か作りたい魔術具があるみたいで、材料になる魔石を探しているの。効果で手に入らないから魔獣がその辺にいないかな、っていつも言ってるんだけど…」

「はっきりとは言わなかったけど遺跡行きを決めたのは絶対にその為だよねー」

「そんなことが…」


 女子達は並んでハイディを見下ろす格好だ。こんなでカワイイ顔して過激なこと考えるものである。


「魔獣って見たことないけど急に襲ってくるんでしょ?怖くないのかしら」

「まーハイドランジアさんは全項目A判定ですし前衛もこなせるから心配はないのかもしれませんが?」

「狩猟部にも参加してんでしょ?バカでっかいイノシシ?とか一撃で仕留めたとか聞いたことあるし、ここらの魔獣なら問題にならない?」

「なんにせよ、大人しく寝てくれて一安心かな。一回寝たら朝まで起きないし、この子」

 つんつんと頬をついてみても時折くすぐったいのか身をよじるだけで起きる気配はない。


「私達も明日に備えて早く寝ちゃおう」

「そだねー」

「実はうちもクタクタで…」

 というわけで、その日は消灯時間を待たずに皆寝入ったのだった。





 暗闇の中、もそりと起き上がる影があった。


「《スリーピングフォレスト》」


 周りも全員寝付いているようだが、念のため睡眠魔術を掛けておく。これでちょっとぐらいの物音では起きないはずだ。


「さて、行きますか」


 ハイディは洞窟に行く気満々であった。しかし、リリィ達と一緒に、ではない。折角操りやすそうなバカな男どもがいるのでそっちを活用する。


 夕食や明日の準備を終えたハイディは、ある魔術を使っていた。《ディープスリープ》と名付けたその魔術は、本来的には睡眠時間を短縮するために深い眠りに入るためのものだ。

 二時間ほど寝れば一晩寝た程度には眠気が遠退くが体に負担がかかる。魔王時代はそれこそ三人で毎日のように使っていたが、連続行使が一週間を超えたあたりからやたら気分が高揚してしまうから週に二回の休養日には使用禁止にしていた禁呪である。子供の体には良くなかろうと、生まれ変わってから使ったことはなかった。


 そしてこの魔術、深い睡眠に落ちるのは危険を伴うのである種の安全装置が備わっている。特定条件に反応して目を覚ますようにできるのだ。今回はその安全装置の条件を「天幕くん達が活動を始めたら」に設定していた。


 懐中時計を確認すると、丁度日付が変わった頃。《パッシブサーチ》で確認すると、コソコソと天幕を抜け出す五人の影を見つけた。

 剣と杖だけ持って、静かに天幕を抜け出すと五人に素早く追いついて声をかける。


「こんな夜中にどこへ行くんです?」

「うわっ、なんだ、ハイドランジアかよ。ビックリさせるな。決まってんだろ?昼間先生が言っていた洞窟だよ。魔王が掘った穴にはお宝が一杯落ちてたって言うし、もしかしたらまだ何か落ちてるかもしれないからな」


 それは、魔王討伐の様子を歌った演劇などで子どもたちに広く浸透している事実。魔王は洞窟を掘って財宝を隠し使い魔に守らせている。事実は希少鉱石などの財宝を作るために穴を掘らせているのだが一般的な理解はそっちだ。そしてそれらは勇者達の臨時収入になったと言われている。こちらも実際は王家に接収されていたりするのだがそれは言わぬが花だろう。


「危ないから行くなと言っていたではないですか」


 森の中を進む五人を追いながら、投げやりに言う。


「そう言いながら止める気ないですよね?ハイドランジアさんであれば我々の前に容易く回り込めたはず。先程まで私たちに気配すら感じさせなかったのだから」

「そんな!先輩方を差し置いてそんなことあるわけ無いでしょう?ああっと、あれはなんだ!?洞窟の入口か!?」

「流石に白々しいわ!」


 五人一斉にツッコミを入れるが追い返そうとはしない。彼女が自分たちを教師に怒られないための方便に使うつもりなのは百も承知だが、そんなことをいちいち言うほど野暮ではないし、その責任をひっかぶってやってもいいと思っている。子供なので普通なら危ないからと追い返すところだが、武勇伝を考えるとそれも不要だ。


 実のところ、この展開は男の中の一人、上級生のサフィによって予見済みなのだ。いくつかあった展開の予想の一つがバッチリハマっていて笑いそうになってしまう。

 もちろん、サフィが考えることは教師の二人も考えていたが、危険視もしていなかった。いくら洞窟に魔獣が住み着きやすいと言っても、これほど街から近いところには滅多なことでは現れないし、現れたとしても大した魔獣ではないからだ。一回行かせれば気が済むだろうと考えていて、それならば男どもと一緒のほうが都合がいいと判断しての見逃しだった。


 もちろんハイディもそのことを理解している。つまりこの状況は徹頭徹尾茶番だった。


「さて、冗談はこのぐらいにして、洞窟に入る順番を決めよう。殿は俺やる。先頭はサフィ、頼めるか?」

「妥当だね、グレン。私の後ろに補助としてグリをつける。レッドはいつも通りグレンと組んでくれ。そして…真ん中はレントン先輩とハイドランジアに頼む」

「分かった」


 というわけで、布陣が決まった。子豚が混ざっているのは少々意外だったが、四人と同じ天幕だったから誘われたらしい。

 こういう反社会的な行動は良しとしない男だと思っていたがそうでもないらしい。ぼっちを拗らせて学友に誘われただけで嬉しくなってノコノコついてきただけかもしれないが。


「もし戦闘が必要になったら先頭か殿の二人づつであたる。中衛の二人はその間新しい敵の警戒をしつつ、崩落を防いだり光を確保するのが仕事だ。できる…できますか?」

「愚問だ。僕を誰だと思っている!」

 三年経っても卒業できなかった落ちこぼれだと思っているがわざわざ言わない。


 話が纏まったところで、早速洞窟に入ることにする。


 はやる気持ちを隠そうともしないハイディが杖で地面に魔術陣を書いていく。魔術陣は別になくてもいいがあった方が安定する。特に今から使うような長時間効果がある魔術ではその傾向が強い。


「では照明を。《グロウフロア》!」


 ここまでは小さな燈火を頼りになるやってきたが、洞窟の中で火はあまり使えない。代わりに魔術が活躍する。


「すっごい明るいね…」

 光系統中級魔術の《グロウフロア》は術者周辺の床や壁を光らせて視界を確保するための魔術だが、普通はぼんやり見える程度で昼間のように明るくなるようなことはない。無駄だから。

 ハイディもここまで明るくするつもりはなかったのだが、久しぶりに使ったせいでちょっと制御に失敗したようだ。魔力を絞って、適度な明るさに調整しておく。


「行こうか」


 サフィの合図で慎重に中に入る。別に直ちに危険というわけではないのだが、緊張の一瞬である。


「小さなネズミがうろついているくらいで特に何もないな」

 そのネズミも、一行に気づくと岩陰に隠れてしまうので静かなものだ。


 最初こそ自然の鍾乳洞といった趣だったが、直ぐに人工的な洞窟が現れる。


「しかし魔王が掘ったという話は本当だったのですね。明らかに自然の洞窟ではなく、人の手によって掘削された形跡がある…」


 洞窟は幅も高さもおおよそ二メートル程度で、少しずつ下りながら右へ左へ蛇行しており、ところどころ分岐や崩落で進めないかところがあった。前に来た誰かが目印に置いたらしい石が残っているので迷う心配も無さそうだ。


(中に入るのは半世紀ぶりだけど案外きれいに残っているものだな)


 魔術で動くゴーレムに掘削を任せきりだったし、ここらの洞窟は比較的初期の《プログラム》で動いていたはずだから心配していたが、このあたりの地盤が強固なせいもあってこの分なら崩落の心配もいらないだろう。あまり暴れなければ、かもしれないが。


「しかし魔王ってやつはなんでこんな穴掘ったんだろうな?」

「魔獣を飼っていたんだろう?それを使役して王族の姫を襲わせたって聞いたぞ」

「ああ、それこないだ初日があった王立演芸場の舞台のやつだろ?かなり独自の解釈を入れてくる劇作家の作だから眉唾じゃないか?」

「いや、でもここらで狩りをしていた王族の誰かが魔獣に襲われた、ってところまでは流石に確定だろ?それを理由に王がお触れを出したわけだから」


 最初こそ神妙にしていた六人だったが、直ぐに緊張も解け思いつきを口に出すようになっていた。


「レントン先輩はなにか、知っていますか?その、父上殿から何か聞いているとか?」

「えっ、あ、ああ、僕も聞いた話はそんなものだよ。というよりも、勇者にまつわる話の大半は父上があることないこと吹き込んで作らせてるみたいだから…」

「うへえ、聞かなきゃよかった」

「な、なんか悪いね」

「レントン先輩が気にすることじゃないッスよ!」

 そう軽く天幕くんが返してくれたが、会話が止まってしまう。後ろからでは表情までは見えないが、相当気まずい思いをしていることだろう。一応は同じ組の仲間なのだし、少し助け舟でも出しておこうか。


「案外、ただ鉱石が欲しかっただけかもしれませんよ?」

「それで一人で世界中に無数にある穴ボコを掘ったって?そりゃ流石に無理があるんじゃないか?どれだけ鉱石欲しかったんだよ、って話だ」

「そりゃ鉄とか石炭はあんまり要らないでしょうけど、魔晶石とか聖銀なんかを集めようと思えばそれなりの規模になるのでは?」

 何しろ実際にそう思って穴を掘り続けた本人が言っているのだから間違いないのだが、ハイディの説は地味なせいか男たちには受け入れられなかった。


 とは言え、男たちが言うことも間違ってはいない。鉱石を集めたあとは魔獣が洞窟を好む理由を解明するために色々養殖していたのだ。半世紀も前の、しかも土地を追われて放棄した洞窟のことなので定かではないが、ここでも何か育てていたかもしれない。もっとも、すでに勇者達が狩り尽くしていて、だからこそ教師たちも安全だと認識しているはずなのだが。


念願の魔獣探しです。続きます。

あと、きょうから少しの間毎日投稿することにしました。お休みなので。

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