表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/31

第一回ハイドランジア争奪戦野外演習杯

 全校生徒が講堂に集められていた。来週行われる野外演習の班分けを行うためだ。


 改めて講堂を見渡してみると、たしかにたくさん並んだ肖像画の中に母親らしき姿を見つけることができた。ただ、自分の記憶にあるものよりも優しげに微笑んでいるのだが。

 家でも自分の娘に対してすらあんな顔を見せたことはない。断言できる。なんというかこう、眼光が鋭いのだ、あの女は。魔王として盗み見ていたときもよく仲間と喧嘩をしていた。唯一の例外はシリウスといちゃついている時ぐらいだろう。


「以上で簡単ながら説明を終わる。各自、三十分以内に班と行き先を決めて報告するように」


 おっと。つまらないことを考えているうちに教師の説明が終わっていた。

 どうせ大した話はしていないだろうから問題ない。


「では、私たちは遺跡、と言う事で」

「ダメだぞ」

「なぜです!?」

 三人揃って報告に行ったらいきなり拒絶された。


「遺跡は僅かながら危険があるからな。最低でも四人で組む必要がある。あと、女子だけの組も禁止だ。もし戦闘になったら不安だからな」

「差別では?」

「それだけ危険だと思って理解してくれ」

「別にそこらの男子に遅れを取るつもりはないのですが…」

「ソッスネーハイドランジアサンハソウデショウネー」

 急にぎこちなくなってしまった教師だが、結局は規則なので、と三人での参加は認められなかった。


「どうするー?あと一人か二人、しかも男子を入れなきゃだけど」

「人選が難しいわ」

 リリィがあたりを見渡すと、仲間になりたそうな顔でこちらを見ている人がざっと見ただけでも十人以上いた。


 測定からこっち、三人に対する注目度が、特にハイディに対するそれが留まることを知らない。

 ある者は純粋な興味で、ある者は将来の安定を思って、ある者は憧れ、あるいは淡い恋心をもって三人に注目している。誰をどう選んでもひと悶着ありそうだ。


「げっ」


 その中に小デブことレントンの姿を見つけてしまって思わず変な声が出た。

 ハイディとリリィ同時に、だ。ハイディとしては自分が勇者の娘であると知っている小デブには不用意に近づきたくない。リリィとしても、長らくつきまとわれていたのでいい印象はなかった。わざわざこちらから声をかけてやる道理はない。


 こちらの様子を伺っている集団の中にファサ男の姿も見つけた。片目を閉じて舌を出した変な顔で無言の主張をしている。気持ち悪い以外の言葉がない。俺たち友達だよな!と顔に書いてあるのがなおウザったい。あ、狩猟部の先輩たちには連れて行かれた。そっちで仲良くやってくれ。



 その中から、ふたり組の男が抜け出してきた。ざわ、と僅かに色めき立って、異様なほどに静まり返る。みんな聞き耳をたてるのに必死だ。


「君たち、遺跡に行くんだろう?我々もそうしようと思っているのだが、いかんせん人数が足りなくてな。合わせれば五人で人数は丁度だし、そちらは男子を含まないといけないという規則も満たせる。どうだ?」


 声をかけてきたのは、いかにも自分に自信がありそうな男たちだった。何処かで見たような気もするが、思い出せない。


 ハイディとしては随伴は誰でもいいのだが、うっかり魔獣退治をするつもりだから自分の身くらい守れる人がいい。マチスとリリィぐらいなら髪の毛ほどのキズもつけさせずに守り通すだけの自信はあるが、その他の有象無象となれば話は別だ。そもそも守る動機がない。

 ちらり、リリィに目配せする。彼女も困った顔をしていた。


「ちょっと待ったーっ!」

「それならば、私達の方と組むべきですよ」

「いや、力仕事が必要だからな。我々のような力自慢が必要だ」

「力は魔術の使いようでどうとでもなるわタワケ!脳筋は引っ込んでろ!ここは俺達が!」


 次から次へと名乗りを上げる生徒たち。

 結局二人組の男が五組十人、ハイディ達の前に出てきた。その外側では三人組以上になっている男たちが誰を裏切ってこちらに来ようかとギスギスした雰囲気を出している。いかんせん寮が三人部屋なので、どうしても三人組の集団が多くなっているのだ。しかしこれ以上増えられても迷惑だ。さっさと決めてしまって事態を収めるべきだろう。


「どうしましょうかー?」


 困り顔のマチスがリリィを見る。ハイディも。何となくこういうときにはいつも彼女を頼ってしまう。


「私としては誰でも…ハイディちゃんは?」

 あんまり暑苦しい人は嫌だなあ、ぐらいは思っているのだが、それを表に出すリリィではなかった。


「私も希望は特に。あ、足手まといはいらないですね。そうでなければもうジャンケンでも腕相撲でも将棋でも決闘でも何でもいいからそっちで適当に決めちゃってください」


「「「「「じゃあ決闘で!」」」」」

「なんでだよ!?」


 ハイディの提案に男たちは迷いもせずに決闘を選んだ。何となく冗談で入れてみただけなのだ。騎士ならともかく、魔術師に決闘で何かを決めるなんて文化は存在しない。提案したハイディが驚いてしまう。

 そんなにハイディをよそに、男たちは決闘のやり方を話し合い始めた。


「本気で決闘するつもりでしょうか?」

「どうだろう?案外、ハイディちゃんにかっこいいところ見せたいだけなんじゃないのー?」

「私にですか?リリィさんでなく?」

「なぜそこで私が出るの?」

「いや、リリィさん大人っぽいし美人だし…私なんかちょっと魔術が得意なだけの子供ですよ?」

「「ちょっとじゃないから!でもハイディちゃんかわいいっ」」

 がしっ、と両脇から抱きしめられた。

 嫌な気はしないというか素直に嬉しいのだけどこの体勢は色々ともにょんもにょんするから恥ずかしいのだ。最初のように取り乱すことは流石になくなったけれど。慣れとは恐ろしい。



「おーい、そこ、何を揉めているんだ?」


 騒ぎを聞きつけた教師がやってきた。男たちの一人か経緯を説明する。良かった、これで止めてくれる…と思った三人が甘かった。


「なるほどわかった。面白そうだからやってみろ!」

「本気ですか先生!」

「ああ。しかし負けて残った者たちで組んで遺跡に行くのが条件だ。他はあらかた組分けが決まってしまったようだし、決闘となると時間内に決められるかわからんからな!」


 その条件なら結局準備諸々が別々になるだけで遺跡にみんなで行くという結果は変わらないと思うのだが、教師の許可が出たことで男たちはますます熱くなっていた。


「で、参加するのは君達か?イチニイサン…六組か。総当たりするほどの時間はないから勝ち抜き戦でよいな?最初に声をかけた者は?うん、君らと、そうだな、一人で参加している君を二回戦からの参加とする。いいな?」

「はい!」


 話がまとまったようだが、いつの間にか小豚、もといレントンが参加していた。それも一人で。

「あの子豚、友達いないんでしょうか?」

「こブヒャッ!?」

 どうやら子豚呼びがリリィの笑いのツボに直撃してしまったらしく、お腹を抱えて身をよじっている。


「あー、レントン先輩ってもう四年目だから遠巻きにされてるって言うのはあるかなー。同期生はもういないはずだし」


 と、最大限気を使った言い回しでマチスが言う。

 この学院は卒業条件を満たせばいつでも卒業できる仕組みだが、だいたいニ、三年もあればみんな卒業してしまう。あえて居残ることができないわけではないがその理由は特にない。優秀なものから卒業していくので、在校期間が長いというのはつまりそういうことである。卒業を長引かせて有利になることはない。



 講堂から演習場に移動する。すでに班登録を終えてやることがなくなっている生徒たちも引き連れての大移動となった。


「さて、勝負のつけ方だが、君達の話を総合すると…二対二の団体勝ち抜き戦、攻撃用の魔術は各属性の初級のみで殺傷能力の低いものを使用、身に着けた護符が発動した時点で失格、二人が失格した時点で敗北、制限時間は五分で失格になった人数が多いほうが敗退、同数ならハイドランジアの判定に委ねる、これでよいな?」

「はい、構いません」


 演習で模擬戦をやるときの典型的な方法だった。妥当な落としどころだろう。最終判断がハイディに任されるのも経緯を考えれば当然の結果だ。


「それでは一回戦第一試合、サフィ・グリ組対カリン・キーマ組、前へ」


 組み合わせはくじ引きで決めたのだが、くしくも一回戦の二試合はともに上級生対新入生の組み合わせとなっている。

「こういう場合、やはり新入生が不利ですよね」

「そうだねー。単純に知識も経験が違うからね。使える手がどうしても少なくなるからね。ハイディちゃんみたいなのは本当に珍しいよ」

 その言葉通り、試合は始終一方的な展開となった。


「《ブラインドフォグ》!」

「…くっ!《バースト…ぐあっ!!」


 何度目かの魔術の応酬の後、上級生の一人、サフィが目くらましに放った対象にまとわりつく霧の魔術ブラインドフォグ。それを散らすために一度魔術を中断しておそらく風系統の魔術を行使しようとしたところを、もう一人に攻撃されてまずキーマが敗退した。そこからは一方的な展開だった。結局三分程度で上級生であるサフィ・グリ組が勝った。


「あれは、霧への対処が決定的に拙かったですね。詠唱を中断せずそのまま押し通せばここまで一方的な展開にはならなかった筈ですよ。それでも時間の問題だったでしょうけど」

「なるほど、解説のハイドランジアさん、ありがとうございました」


 というわけで、一回戦第二試合だ。

「次、ホイット・スイング組、サディ・バリ組、前へ」


 緊張した面持ちの下級生二人に対して、上級生は余裕の表情だ。先ほどの試合を見て上級生との力の差を認識してしまってすっかり委縮してしまっている。あれでは勝てるものも勝てない。

 その予想通り、あっという間の決着となった。


「しっ、《シールド》!!」

「《フレイムガトリング》!!」


 防御戦術をとった下級生二人、サディとバリに対して、ホイットとスイングの選択は飽和攻撃だ。低威力ではあるが連射速度の高い魔術を二人で交互に連発。サディは防御の魔術にある程度の自信を持っていたようであるが、反撃に移れぬままその場にくぎ付けにされて、障壁の耐久度がなくなると同時にガトリングの最後の二発がそれぞれサディとバリに直撃して終了となった。


「どうですか、解説のハイドランジアさん」

「どうもこうも、完全に地力で負けていましたからね。順当な結果でしょう」


 特に見るべきところもなかったので適当な感想しかない。ちなみに、先ほどから話を振ってきているのはマチスだ。


「さて、第二回戦はサフィ・グリ組対グレン・レッド組だ」

 グレンとレッドは最初にハイディたちに話しかけてきた二人組だ。


「ようサフィ、調子よさそうだな」

「グレンもな」


 この四人は同期入学の友人同士のようで、気さくな雰囲気だ。お互いの手の内も理解しきっているだろう。


「模擬戦では負け越しているが今日は勝たせてもらうぞ」

「フフ、こちらも負けるつもりはないよ」

 グレンとサフィが激しく火花を散らす横では、レッドとグリも静かに闘志を燃やしている。


「それでは、始め!」

「《ストームバースト》!」

「やはりな。《ヴォイド》!」


 開始と同時にグレンが放った風魔法を、風魔法に特に有効な防御魔術で無効化するサフィ。その隙に走り込んだグリがグレンの影で死角になっているレッドを目掛けて魔術を放つ。


「《クレセント》!」


 三日月型の特殊な軌道を持つ初級の光属性魔術。変則的な軌道のため当てるのが難しい魔術だが、そこは流石なもので確実にレッドを捉えている。


「おわっ、ととと」


 すんでのところで攻撃に気づいたレッドが身を躱す。その拍子に詠唱中の魔術が中断されてしまった。これは大きな隙になる。


「くそ、《ファイア》!」

 咄嗟にほぼ無詠唱で発動可能な単位魔術を放つ。狙いは死角から攻撃してきたグリ。だがこの魔術、基礎だけあって、手の上で生成した火球をただ投げるだけのものだ。つまり飛距離や速度、照準は完全に使用者の投擲能力に依存する。そして魔術師は得てして体を動かすのが苦手だ。今回もその例に漏れず、ヒョロヒョロの火の玉が飛んでいった。

 そんなヒョロ玉でも気にしないわけに行かず、グリの意識が一瞬そちらを向く。


「《ライトニングアロー》!」

「ぐあっ!?」


 サフィに向けて詠唱していた魔術をグリに放つ。威力は皆無だが速度重視の攻撃魔術。演習では重宝する。それは首尾よく命中し、グリは失格となったが、同時にサフィが放っていた魔術もまた、レッドを捉えていた。


「一騎打ちか」

「一騎打ちの成績では私の勝ち越しだよね?グレン」

「たしかにな。だがいつもそうなるとは限らんよな?」


 喋りながらも、二人共次の手を考えていた。

 このような状況では詠唱の読み合いになるのが常である。その点でグレンはサフィに劣っているのを自覚していたし、さらにそこからの瞬発力である詠唱速度でも僅かだか負けている。威力では分があるのだがこの形式ではほとんど関係ない。


 結局、グレンから先に詠唱を開始するしかない。一応騙しの詠唱を少し入れてみたが、果たしてどうか。


「《ライトニングアロー》!」

「《ライトニングアロー》!」


 奇しくも二人が詠唱したのは同じ魔術だ。詠唱に入ったのはグレンが早かったが無意味な詠唱を付加していたので発動はほぼ同時になった。しかも、これを読んでいたサフィは十分に威力を練り込んだ術を完成させている。


 結果、

「ちっ、負けたか」

 グレンが放った雷光を貫通して護符を発動させられた。


「いやいや、割とギリギリだったよ。また威力が上がったんじゃないか?」

「よせよ、慰めにもならんわ」

 そんなやり取りを見ながら、なんかいいな、と思うハイディなのだった。



 二回戦の第二試合は、子豚の出番だ。この前捻った時は一方的に不意打ち気味だったから彼の実力は知らない。


「ホイット・スイング組、レントン、前へ」


 ニ対一はかなり不利だ。生徒ではまだ二重詠唱など出来はするまい。となれば単純に片方に対応している間にもう片方にやられる。よほどうまく立ち回る必要があるがその立ち回りに必要なのも二重詠唱だったりするので子豚には悪いが勝ち目はないだろう。


 しかし。

「くっ、この程度の術では通せないのか!?」


 スイングが焦りの声を上げた。最初は彼も子豚をナメていたのだ。四年生など落ちこぼれと。


「バカ、そんなこと言ってる暇があったら詠唱しろ!」

「お前もな!」

「ホイット!!?」


 子豚ちゃんが使っているのは、土系統の防御魔術だった。床に敷かれた石やその下の土を操って防御壁を構築する。それを巧みに動かすことで常に相手の射線と視線を遮って、その隙に有利な場所に移動して攻撃する戦法。


「なかなかやりますね。戦場の視野が広い」

 すこし癪だがここは素直に褒めておく。


「レントン先輩あれで一応英雄の子だし、素行はちょっとアレで迷惑だけど魔術師としては四年生だけあって経験もそれなりにあるのかな」

 リリィも複雑な心境だった。真面目に戦うレントンは普段の素行を考えなければ割とかっこいい。


 結局そのまま、レントンが勝利した。ちょっとした番狂わせに観客がザワつく。聞こえてくる声から察するに賭けの対象になっていたようだ。



「最終戦、サフィ・グリ組、前へ」


 そのまま居残ったレントンとサフィが睨み合う。グリもレントンを見ていたが眼中になかった。先の試合から警戒すべきはこっち、という判断だろう。ハイディもそこに異論はない。


 そうして始まった最終戦は結果として先の試合の再現となった。決闘向けの軽い魔術では石や土の壁を容易には突破できない。無論サフィとて無策ではないが、レントンは搦手にもうまく対応できていた。


「勝者、レントン!」

 悲鳴にも似た完成が演習場に響く。悲鳴は賭けで負けた連中だろう。


 子豚が勝ち誇った顔でハイディに近寄ってきた。この時点ですでにウザったいのだが…

「あの時は油断していたんだ、まぐれで僕に勝ったぐらいで思い上がらないでほしいね」

 等と耳元で囁くものだから、ブワッと鳥肌が一斉に立った。気持ち悪いからやめてくれ。



 こうして、遺跡行きの組み合わせが無事に(?)決まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ