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ちょっとやり過ぎだったかもしれないけど今更どうしようもないから諦めが肝心だよね

ガールズトークつらい

 魔術技能の測定を終えたハイディたちは、食堂でお互いの測定結果を見せあっていた。周りを見渡せば皆考えることは同じようで、それぞれ仲の良い者同士集まって結果を比べているようだった。いつもより喧騒が大きい。


「ほえー、ハイディちゃんすごいねえ…全部A判定とか初めて見たよ」


 マチスの言葉にリリィも首が千切れそうなほど強く頷いている。


「皆卒業までにA判定を3つか4つ取れるぐらいなのに。私だって今回の測定では二つなのよ。一つ増えたけどね」

 そう言ってリリィが見せてくれた測定用紙は速度と圧縮の2つがA判定になっていた。


「リリィだってすごい方なんだよー。一年目からA判定あったし、二年目で二つだし。優等生なんだよねー。私なんかまだ一個もなくて…B判定がやっとなのに」


「魔術は得意なので」

「天才っ…!」


 また唐突に抱きしめられた。悪い気はしないがやっぱり恥ずかしい。


 さっきからひたすら褒め殺しを続けている二人に対して、ハイディは内心少し焦っていた。

 それぞれの測定に最高評価のA判定をつけている生徒はそれなりにいたから見誤った。全部がA判定なのはやりすぎだったのだ。


「何かコツとかあるの?」

「日々の努力の賜物、としか。魔術技能は体内の魔石をどれだけ成長させられるかがカギですからね。知識ばかりあってもだめで、やはり実践しないと」

「結局そこなんだよねー」

 ため息を一つ。


「ハイディちゃんの頭の中はどうなってるのかしら…」

「嫌ですよ、寝てる間に頭かち割られるとか!」

「そんなことするわけないでしょ!」

「ちょっとー、今日私お肉頼んじゃってるんだよ?気味悪い話しないでくれるかなー?」

「「ごめんなさい」」


 こういう冗談を言い合える関係、やっぱり良い。半世紀前この学院に通っていたときは…うん、やめよう。折角の美味しいご飯が不味くなる。


「全項目A判定って歴代の主席卒業生に何人かいるくらいだからね。入学して最初の測定で、って言うのはもしかしたら学院初の快挙なんじゃない?しかもまだ十歳とか、これで一気に有名人だね」

「これまでもかなり目立ってたけどねー、ハイディちゃんは」

「ううう…」

 面倒なことになりそうな予感がふつふつと湧いてきて頭を抱えてしまう。


「そんなに目だってますか」

「もうこの学院にハイディちゃんを知らない人はいないと思うよ」

「そこまでかー…」


 もう開き直っちゃおうかな、そう考えていたとき、三人の卓に近寄ってくる生徒がいた。


「あ、あのっ」


 妙に緊張した声色で、その少年は手にしていた手紙を差し出す。


「以前は助けていただいてありがとうございました。あの、これ、その時のお礼です。受け取ってください!」



「え…」



 慌ててキョロキョロしてみたが、どう考えてもこの少年は自分に話しかけている。両横の二人がちょっとニヤけた顔で見てくるのが少し腹立たしい。

 手紙には小さな髪飾りが添えられていた。自分がかつてこの少年を助けたらしいのだがさっぱり記憶にない。髪飾りは可愛らしい花をあしらったもので、高級品ではないが丁寧に作られたそれなりに値の張りそうな品だった。


 さて、どうしたものか。


「すいません、これは受け取れません」


 そう告げると、とたんに死にそうな顔になる少年。おっと、これは不味いか?


「ですが、こちらは受け取っておきますね」


 そう言って手紙だけを受け取って、髪飾りは少年に握らせた。


「…!あ、ありがとうございます!」

 顔を真っ赤にした少年は、何度も礼を言っては頭を下げながら人ごみに消えていった。



「恋文かしらね」

「だろうねー」

「お礼状ですよ、お礼状」


 さすがにこんなところで衆人環視の中手紙を読むような無粋なまねはしない。そっと胸元に忍ばせておく。

 ちなみに、この時のやり取りを見ていた生徒たちは「手紙なら受け取ってもらえる」と解釈したのでこの後しばらくお手紙地獄が訪れることをハイディはまだ知らない。



「それで、何の話でしたっけ?」


「ハイディちゃんの測定結果が歴代最強かもしれないって話」

「そうだねー。最近では天瞠の魔女様が全項目A判定かつ威力測定で十枚抜き達成って記録が残っているけど、それももう十年以上前だもんね」

「十年に一人の逸材だ」

 ぱちぱち、と小さく拍手。目立つからちょっとやめてほしい。


「天瞠?の魔女というのは、有名な方なんでしょうか?」

 こちとら引きこもり歴半世紀の田舎者なのだ。最近の事情にはとんと疎い。


「あれ?知らない?講堂の後ろに歴代の主席卒業生として肖像画が飾られているんだけど」


 そのこと自体は昔からそうなので知ってはいるが、興味もないのであまりしげしげと眺めたことはなかった。

 どうだったか、と思い返してみてもよくわからない。


「でも、こういった方が世間的にはわかりやすいかな?十年前に編成された魔王討伐隊の魔術師長、アン様のことだよ」

「ぶほっ」


 思わず食べかけの麺を吹き出すところだった。すんでのところで防御が成功してよかった。ちょっと机に汁が跳ねたがリリィが無言で拭いてくれた。


「大丈夫?」

「すいません、ちょっと麺が喉に…」

「ははは。気をつけてねー」

「はい。リリィさんもありがとうございます」

「どういたしまして」


 それにしても。

 あの母親、そんな立派な称号持ちだったのか。称号は王家から褒章として与えられるものだが、天で始まるものはその中でも最上級の称号なのだ。


「私も何かかっこいい称号がほしいなー」

 麺をくるくる巻き取りながら、なんとなしにマチスが呟く。


「まずは、目立った成果を上げないとね。アン様だって魔王討伐の褒章でその称号を授かったのだし」

「そうだよねー。いいよね、称号持ち。就職にも断然有利だし」


 かなり打算的な理由ではあったが、名誉なことであるのは間違いない。


「マチスさんはどこか就職したいところがあるのですか?」

「そりゃねー、苦労して中央の魔術学院に入れたんだからそれなりのところがいいよ。今は魔術師の需要がすごく多いから引く手あまたなんだけどさ。例えば宮廷魔術師になれれば玉の輿の機会も狙えるじゃない?」

 かわいい顔して打算の塊だった。


「そういえば話は戻るけど、天瞠の魔女様の肖像画ってどことなくハイディちゃんに似てるよねー?やっぱり天才の持つ雰囲気的なものがそうさせるのかな?」


「そ、そうでしょうか?」


 マチスのいつもと変わらないおっとりとした目がなぜか小動物を狙う猛禽類のように見えた。

 こいつ、まさか全部わかってて探りを入れようとしているのか?こんな虫も殺さないような顔をして…いや、虫は殺すか。畑で駆除した虫とか残忍な殺し方をしそうだ(ハイディの勝手な想像です)。


「私はそんなに似てないと思う」

 リリィはあまり興味なさそうだ。

 実際のところ、肖像画は本人の「希望」により少しだけ現物とは違うように描かれているので、逆にハイディとは似ていないのだが。



「とっ、ところで、来週の屋外演習、どこに行きましょうか!?」

「あー、あの面倒なやつかぁ。どうしよっか、ねえ、リリィ」

「折角だから全員で回ろう?おんなじ授業で出かけるってそんなにない機会だし」

「そうだねー。ハイディちゃんもそれでいい?」

「あ、はい。もちろんです」


 自分でもやや強引な話題転換だと思ったが、案外と彼女たちは気にしていないようでほっと胸をなでおろす。


 思い返してみればこの三人での会話はいつもこんな感じだった。話題が二転三転して少し気を抜くと話題からおいていかれる。友人との何気ない会話とはかくも難しいものだったとは。カルマン君と話すときはこんなことなかったのに。ミラは、あんまり喋る方ではなかった。たまに口を開くと小言が飛んでくる。


「行き先は選べるんでしたっけ?」


「そうだね。魔術師のお仕事体験、みたいなゆるい行事だけど。去年は海見たさに海岸線の測量をやったかな。リリィにも付き合ってもらって」

「私もそれなりに楽しかったからいいのよ」


「他にはどんなところが?」

「人気なのはやっぱり町中で実習するやつかなー。道具屋の手伝いとか、王立魔術師団の訓練とか」

「森の植生調査とか遺跡調査みたいなあからさまに人気のないのもあるわ」


「遺跡?ここらから行けるとなるとリカリス遺跡ですか?」


 世界にはかつて栄えた文明の遺跡が点在している。この世の歴史は戦いの歴史だ。

 今でこそ大陸全域に生息域を広げた人類だが、かつては今の東大陸や西大陸のように魔獣が跋扈する野生の領域だったのだ。勢力を広げては押し返されてを繰り返すうちに失われてしまった歴史や技術が星の数ほど存在する。そういった遺跡を調べて新しい知見を得るのも、魔術師の役割の一つとされていた。


「興味あるの?」

「はい」


 正確には、遺跡そのものというよりはその辺りにあるはずの昔掘ったまま放置していた採掘坑に、だが。


 野生の魔獣はなぜか深い洞穴に住み着いていることが多い。坑道自体はかつて魔王時代に資源を得るため勝手に掘ったものだが、半世紀近くたっているのでそろそろ魔獣の一匹ぐらい住み着いているかもしれない。


「遺跡はね、発掘調査の真似事をするだけの地味な演習だよー。すごく遠くて行くだけでも一苦労だし、森も近くて極たまに魔獣が出てくることもあるから危険であんまり行きたがる人はいないんだよね。もちろん、先生達がついてるから大丈夫だとは思うけど」


 うんうん、と隣りてリリィも頷いている。ハイディが危ない目に合わないように忠告してくれているのだろう。


 しかし。しかし、魔獣が出るかともしれないと聞けばむしろ是が非でも行かねばならない。可及的速やかに魔石を確保してカルマンとの連絡路を確保する必要があるのだから。


「遺跡、行ってみたいです」

「ええー、本気?」

「本気です!」

 明らかに心配そうな顔色の二人だったが、やがて諦めたようにため息をついた。


「ハイディちゃんて案外頑固だよね」

「本当に、万が一があるから危ないかもだよー」

「大丈夫ですよ。全項目A判定ですから!」

「う、うーん、それを言われると反論できない」


 結局、ハイディが押し切る形で遺跡行きが決まった。二人には申し訳ないが、うっかりはぐれて採掘坑に迷い込んで魔獣の一匹でも狩ってやろうという密かな野望を抱きながら。


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