適切な教育のためというけれど一体何にどう使うんだろう
切れ目がなかったのでいつもよりちょっと長いですよ。お得ですね。
いつものように日課の走り込みと素振り、そして剣技の型を一通りこなしてから軽く汗を流して再び運動着を着る。もちろんさっきまで着ていた汗まみれのものではなく、昨日買ってきた新しいものだ。
これまで替えの運動着が無かったから、今日のように学院で運動着が必要なときには汗まみれの服をもう一度着ることになっていたのだと今更気付いた。今までそんな機会がなくて本当に良かった。まあ、いざとなったら魔術でガーッと洗濯してしまうのだが乾燥まで一気にやると生地がすごく痛むのであんまりやりたくはない。
で、なぜ今日に限って運動着かといえば。
「今日は測定だね~」
「この半年でどれだけ成長したか楽しみ」
というわけである。
魔術学院では半年に一度、測定と呼ばれる行事が行われる。
何を測るかといえば、生徒の魔術的な技能である。用意された様々な課題をこなしていって記録を取るのだ。
他にも運動能力の計測も行われるが、そちらはほとんど重視されていない。魔術師が左右に素早く動けてどうなると言うのか。そんな単純な理由で。
(計測かぁ…半世紀ぶりだなあ)
ハイディが昔通っていたときから計測はあったので、当然当時も計測をした。しかしどんな成績だったかは今ひとつ覚えていない。あんまり真面目にやった記憶もなかった。
今回は、最速一年での卒業を目指しているので、それなりの結果を残す必要がある。とは言えあまり全力でやってしまうと面倒なことになりそうなので、ある程度の手加減が必要だろう。
というわけで測定である。
本館にある屋内演習場に全校生徒が集められていた。皆それぞれ自信の程を仲間内で話し合ったりしている。あからさまに自信なさげにしている人もいれば、やたら気合の入っている人もいた。
「どうする?一緒に回るー?」
というのも、この測定会は時間内にすべて周りさえすれば順番などはすべて生徒に任されている。魔術だって使い放題ではない。使えば疲れるので得意なところからやりたいとかその逆とかの様々な要望が昔から、それこそ開校当初からあるらしく、ずっとそういうことになっている。
「私は初めてなので少し様子を見てから回りたいので、お二人でどうぞ」
「そう?じゃあ…リリィ、どうするー?」
「折角だから、全員バラバラに受けてあとで見せっこしましょう。その方が面白そうだわ」
「そだねー。ハイディちゃんもそれでいい?」
「問題ありません」
というわけで、ハイディは二人と分かれて測定をすることになった。
◇
一人になったハイディは、とりあえず手近にあった測定所を見てみた。術の発生速度を測定するところのようだ。ここでは規定の詠唱を使って魔術が発動するまでの時間を測定する。今も生徒が必死の形相で詠唱をしていて、それを隣で教師が懐中時計で測っていた。
魔術の詠唱と言うものは、ただその音を出せばいつでも同じ効果が得られるというわけではない。術式の内容や効果を理解していればいるほど迅速に大きな効果が得られる。
(これってあんまり手加減できないんだよなあ)
何しろ術式の理解が主題なのだ。その点については魔王時代に相当鍛えているので、魂にまで染み付いてしまっている。本気を出せばかなりの高速化は見込めるが、手を抜くには限度があった。理解せずに術式を詠むというのがまず出来ない。
なので、とりあえずこれを済ませておくことにした。何人か観察してみたが流石に最高峰である中央魔術学院の生徒だけあって術の発生が早い。しっかり術式を理解できているのだろう。
ただ、取り立ててすごく早い、という程でもなかったので、このぐらいなら流す適度でやれば適度な評価になるだろう。
「それでは、この紙に書かれた魔術の中から好きな属性のものを一つ選んで詠唱してください。最初に一分間の準備時間がありますので、その間に術式を確認してください。一分経ったら測定開始の合図をしますので詠唱を始めてください」
「わかりました」
担当教諭に渡された紙には主要属性の基本的な詠唱がいくつか並んでいた。得意なものを選ばせることで発生速度以外の要因による誤差を抑える伝統的なやり方。そういえばこんな感じだったなあ、と懐かしさを感じていると、ふと思い出したことがあった。
(ん?そういえばここに書かれてる魔術って毎回同じじゃなかったか?それで前もって術式を知っている在校生が有利になって新入生に威張れる、みたいな感じだったような気が)
「詠唱を始めてください」
「へあっ!?」
どうでもいいことを考えている間に一分経っていたようだ。全く準備していないが問題ない。何人か見ていたのでその中の一人が使っていた魔術を使えばいいだけだ。
「…《トーチ》」
光を発生させるだけの初歩的な魔術。通常、魔術は最後の術式名で発動する。しかしその部分は術式を安定させる効果があるが発動そのものには無関係なので慣れれば省略可能だ。だからつい、省略してしまった。
わざとじゃない。この程度の初歩的な魔術であればいつも術式名を省略していたので、今回も省略した。で、魔術が発動した直後、この前の多重詠唱の時のように、ひょっとしたらこれは標準的な技能では無かったかもしれないという理性が働いて一応発動後に術式名を付け足しておいた。だって今まで見ていた生徒は誰も省略していなかったから。
測定していた教師を伺うと、やはりと言うかなんというか目を見開いて驚いていた。誤魔化せなかったみたいだ。
(ま、まあ、術式名省略は多重詠唱より難易度かなり低いから大丈夫だよな?)
自信はないが、そう思っておこう。精神衛生のために。
我に返った教師がうんうんと満足げに頷いて紙に書き込んだ測定結果を渡してくれた。測定結果の横には評価を表す文字が書かれている。
「文句なしのAですね」
「ありがとうございました」
最高評価だった。その後何人か見ていたが、そのうちの一人が術式名省略をしていたので安心して次の測定へ向かうことにした。
隣では的あてをやっていた。精度の計測だ。見ていると大体の人が的の真ん中に当てているので、これは普通にやれば問題なさそうだ。そもそもこの体では制御がガバガバなので、精度にはあまり自信がないのだ。
「それでは、指定された魔術を三回、的に向かって行使してください」
術式自体は手のひらに載せた小石を飛ばす単純なものだ。術の精度が悪いと真っ直ぐ飛ばないのでどんなに良く狙っても的の中央には当てられない。
「《ストーンバレット》」
三発の石つぶてはすべて的のほぼ真ん中に命中した。こんなもんだろう。測定していた教師も満足げに評価を書き込んでいる。A判定だった。
その隣ではさっきから派手な音が響いている。威力の測定だ。魔術具で作った多重の防御障壁を何枚抜けるかを測る。
(これは様子見だな。どの位が標準なのかわからんし)
昔やったときはたしか全部は抜けない程度だったと思うのだが、その時と同じ障壁の硬さだとも限らない。どちらにしろここで行使される魔術は派手なので多少離れていても様子はわかる。
次に行こう。
威力の隣は安定性だった。丁度マチスの測定が終わったようで、結果の紙を満足げに眺めながら出てきた。
「あ、ハイディちゃん。どんな感じ?」
「まあ、それなりだと思います」
「そっかー。全部終わったら見せっこだからね!ふふふ」
よほど上手く行ったのか、満面の笑みでマチスは次の測定に向かっていった。
さて、安定性の測定だが、これは同じ魔術を十回使ってその効果を見る。
(やっぱり中央の魔術学院に入れるだけあって、皆それなりなのだな)
何人か見ていたが、その中に一人飛び抜けて安定している生徒がいた。それでも教師は淡々と点をつけていたから、まあそんなものなのだろう。ここも、さっさと済ませておいて問題なさそうだ。測定結果は、最高評価のAだった。
その隣は、回転、らしい。聞いたことのない項目だった。
少なくとも半世紀前にやったときには無かった。この半世紀で項目の見直しも行われているようだ。
「回転では魔術の連続発動能力を計測する。指定魔術を5回使ってすべてが発動するまでの時間を測るんだぞ」
「なるほどね」
ちなみに、教えてくれたのはファサ男だった。ハイディの少し前に並んでいて、今まさに測定を終えたところだった。
「ハイドランジアも今からこれを測るのか?ボクはB判定だったぞ」
「へー」
別に興味がないので完全に聞き流している。さっきから何人かの測定を見ていたが、どうにもバラツキが大きいようだ。上級生たちは難なくこなしているようだが、新入生は苦戦している。そんな中でB判定だったのだから、ファサ男はこれで結構優秀なのかもしれない。
「ま、やってみますか」
結果はもちろんA判定だった。あまりにもファサ男が自慢してきてウザいので少々本気を出してしまった。口を間抜けに開けたまま固まってしまったバカは放っておいて、早く次の測定に向かおう。
次に目をつけたのは強度の測定だ。
測定用の魔術具の前に立って防御魔術を使うだけなのだがこれも問題だ。何しろ防御魔術の出来不出来は外からの見た目でわからないのだ。つまり、どの程度の硬さが出せれば正解なのかがわからない。
「まあ、これは出たとこ勝負だな」
とりあえずA判定は貰えたので良しとしておく。
◇
「結構回ったけど残りは…威力、属性適性、属性変換、圧縮、か。結構あるけど魔力量の測定項目が無いな。持久走みたいにひたすら魔術を使い続ける面倒な測定だからないのは嬉しいが後日測るのかねえ」
ブツブツと一人言をしながら測定所を見て回る。まず行き当たったのは属性適性の計測だった。
「これは誤魔化しようがないからやっておくか」
基本的に魔術の適性というのは体内で育った魔石に由来するから、同じく魔石に由来する魔術抵抗力と同じ意味だ。この測定は至って単純で、様々な属性の微弱魔術に対して詠唱なしの《レジスト》効果が発動して魔術が無効化されるかどうかを見るだけ。
(昔はどうだったかなあ。雷、火、水あたりの適性が高かった記憶があるんだけどな)
この三系統は攻撃に使ったときの火力が高くなりやすい系統で、未開の地で研究用の魔獣を狩りまくっていた時にかなり適性が上がったのだ。
今回測定されるのは火・水・氷・風・土・光・闇・雷・振・念・霊・聖の十二属性分。簡易的には六属性ぐらいしか計測しなかったりするし、流石は中央魔術学院と言うべきか。
(転生が適性にどんな影響を与えているかは実は気になってたんだよなあ)
体内の魔石に由来する適性は、別の体になってしまった転生後の自分には当然引き継がれていないはず。と言うわけで珍しくワクワクしながら測定結果を受け取ったが、闇・振・聖の三属性がBなだけであとはAだった。
普通に考えたらいろいろなものに適性があってすごい、となるのだがこうも高振れしていると測定間違いの疑いがある。
だってまだ十歳なのだ。常識的に考えてこれほどの適性を備えているはずがない。
「あのう、これ、けっこう測定がいい加減だったりしますか?」
「え?そんなことはありませんよ。整備も万全です。素晴らしい適性でしたね」
「そうですか、ありがとうございました」
一応測定してくれた教師に確認してみたがこの結果で合っているらしい。えらい上機嫌で教えてくれた。これだけ満遍なく適性があったらむしろ適性と言うより弱点を計測しているような気になるが気にしてもしょうがない。機会があればもっと精度よく測れる方法を考えよう。これでは本当に得意な属性が何なのか判断できない。
次は、属性変換だ。この測定は昔はなかった。
「片側の魔石に記録した魔術を属性変換しながら右に移して、また戻すまでの時間を測るのか。なるほど、基本的な魔力操作の巧さを測るわけか」
何人か様子を見たけれど、あまり速度差はなさそうだった。その中でA判定をもらっていた人が一人いたので、それより少し早く終わるようにすればいいわけだ。簡単簡単。
と言うわけで、担当の教師から渡された魔石を両手に持って準備する。
(この魔石欲しいなあ。いくらくらいするのかなあ。端っこあとでちょっと切り取って持って帰りたいなあ)
などと窃盗の計画を考えているうちに、開始の合図があった。
慎重に、早くなりすぎないように調節しながら魔力を右から左へ流していく。何も問題はない。全部移したら今度は左から右へ。はい、終わり。
「終わりました」
「流石ですね」
返却された記録用紙にはしっかりとAが書かれていた。
「あとは圧縮と威力か。威力も大体の感じはわかってきたからそろそろ行ってみるかな」
というわけで威力の測定に向かっていたのだが、途中で圧縮の測定をしているリリィを見つけた。魔石にどれだけ多くの力を押し込められるかを測定するのだ。
リリィは真剣な表情で固く石を握り込んでいた。別に握りこんだ手の力が強いからと言って魔力が圧縮できるわけではないのだが。慣れないうちはああなってしまうのはよくわかるので悪いとは思いながらも笑みが零れてしまう。
「そこまで」
「ふぅ」
先生の合図で圧縮をやめる。よほど集中していたのか大きく息を吐いた。釣られてハイディも深呼吸。真剣な表情に当てられて自分の息も止めてしまっていたのだ。
ハイディに気付いたリリィが恥ずかしげにはにかむ。なんと可愛らしいやつだ。女になってさえちょっとドキドキする。男の頃ならイチコロだったかもしれない。
「ハイディちゃんはもう全部終わった?」
「いえ、あとこの圧縮と威力ですね」
「そうなんだ。私はこれで最後。威力を最後にするなんて、自信家だね」
「なぜです?」
「だって、もう皆測定が終わっている頃だから暇になるでしょう?そしたら、見た目が派手な威力測定に集まるじゃない。観客が居たほうが燃えるから、ってわざと最後の方に持ってくる人も多いんだよ」
「そうだったんですか…」
初耳である。いや、昔からそうだったのかも知れないが忘却の彼方だ。たしかに威力測定の方を見ると人だかりができていた。
(うーん、あの中でやるのか…緊張しちゃうな)
しかしもう手遅れなので諦めて衆人環視の中で測定するしかない。
「あんまりゆっくりしてたら時間切れになっちゃうから、さっさとここ終わらせて向こうに行こう」
「そうですね」
というわけで、圧縮はさらっと終わらせる。魔石の容量ギリギリまでは詰め込んでおいたからA判定は確実だろう。
「さあ、行きますか」
「あれ?圧縮の測定は?」
「終わりましたよ?」
「いつの間に!?」
「ついさっき?」
お互い首を傾げて見つめ合っているとつい吹き出しそうになる。
「詠唱は?」
「魔力圧縮には不要でしょう?」
「それはそうだけどそれはちょっと圧縮する時の話で魔石に詰めるときは普通に詠唱するよね?」
「そうですか?」
そもそも魔石に魔力を圧縮して押し込むというのは、交戦中に魔術の威力を確保するために仕方なくやることだとハイディは認識していた。
そしてそれは別の魔術を詠唱しながら片手間でやるということを意味する。
それは実践的な側面を見れば紛れもない正解であり、それが出来るかどうかが一流と二流の境目とされていた。つまりそれなりに高度な技術だ。
「い、急ぎましょう」
「え、ええ」
また常識とのズレでやらかしてしまったことを理解したハイディは、無理やり話を打ち切って、リリィの手を引いて威力測定へ向かった。当然、圧縮の評価はA判定だった。
◇
「おっと、これはすごいね~」
「マチスさんも測定終わったんですから?」
「うん。折角だからここを見ておこうかなーと思って」
途中でマチスも合流した。彼女を含めてほとんどの生徒が測定を終えているようで、この場所に集まってきているようだ。
「すいませーん、測定させてくださーい」
人垣をかき分けて前に出ていく。リリィとマチスも無理やり押し入ってついてきてくれているが辛そうだ。
ふいにぽんと人垣が割れて前に飛び出した。
「おい、あれ」
「新入生のハイドランジア」
「狩猟部でバカでかいイノシシを一撃でぶっ飛ばしたとか」
「今から威力の測定か」
「噂通りの奴か見ものだな」
どんな噂か知らないけれど噂になっていたようだ。前回の狩猟部での活躍(?)がきっかけかもしれない。ある意味自業自得だし気にしていても仕方ない。
さて、肝心の測定はというと。
「《ファイアジャベリン》!!」
「おおおお~~!九枚抜きだ!」
ズガガガガガ!!と轟音が響き、続いて歓声。歓声を送られた男は腕を振り上げて自慢げにしていた。
男は測定結果を受け取ると、ゆっくりとハイディに近づいてくる。
「君がハイドランジアか。魔術には相当覚えがあるようだな」
「はぁ、それなりに」
「しかと見せてもらうからな」
「はぁ…?」
全然知らない男に肩まで触られて謎の上から目線でちょっと気分が悪い。
男が人ごみに紛れてから、隣に立っていたリリィに小声で聞いてみた。
「誰です?」
「知らない」
雑魚らしい。忘れよう。
ささっと肩を掃ってから測定の列に並ぶ。人だかりができている割に数人しかいなかった。やはりみんな測定が終わってしまっているらしい。
それから何人かが派手な成績を修めていくのを眺めている。たしかに腕に自信のある人ばかりのようで八枚九枚と確実に抜いていく。今客たちの興奮も凄まじい。しかし十枚すべての障壁を抜く強者はいなかった。
(そういえば、昔やった時も最後の十枚目が抜けなかったんだよなぁ。もう一回やれば抜けそうな感触はあったんだけどなぁ)
ここはひとつ十枚目をぶち抜いてやれば目立つだろう。
もうどうせ目立ってしまっているのでどうにでもなれ、と投げやりになっている面も否定できない。
さて、いよいよハイディの番になった。恐ろしいことに自分の後ろには誰も並んでいない。自分で最後だ。
最後を狙ったわけではなかったのだが、様子を探り探りやっていたせいで測定に時間がかかっていた。
位置に着くと目の前に十枚の障壁が現れる。そうそう、こんな感じだった。懐かしい。
「ハイディちゃーん!がんばってね~!」
「がんばれ」
マチスとリリィの声が聞こえる。なんかいいな、こういうの。そういえば前の時はいつも一人で…あれ、おかしいな、目から水が…。
「用意!」
「はい」
使う魔術は自由だが一発限定。貫通力重視の魔術が有利だろう。魔術具を使って作った属性のない防御障壁だからどの属性でも同じ。やりすぎて演習場を破壊するのも拙いから、いざとなったら「散らせる」魔術がいいだろう。それならば。
「《アイシクルピアーシング》!」
氷系統の上級魔術。
圧縮されてガチガチに固まった氷の槍の先端は金剛石のように透き通り、また鋭利になっている。その槍が高速回転しながら空気を切り裂いて飛び出していった。
軽い音と共に何の抵抗もなく魔術防壁が砕け散っていく。七枚、八枚と抜けたところで行く末を見守る観客達は息遣いすら聞こえてこないほど静かになった。
九枚目を抜き、最後の一枚。
ゴッ、とこれまでに無い衝撃音。この十枚の障壁は後ろのものほど固くなるように設定されているが、最後の一枚だけは貫通すると危ないので他のものとは比較にならないほどに頑丈にできている。抜かれることは想定していない。八枚抜ければA判定なのだ。
果たして。
バキバキバキ、と不穏な音が屋内演習場に響く。
最後の障壁に高速で激突した氷槍が砕け散った。最後の一枚の障壁と一緒に。
「よし、丁度抜けた」
今みたいに集中できればこの体でもそれなりの精度が出せるようで、ほぼ狙ったとおりの威力が出せた。本当は綺麗に十枚目を抜いたところで槍が砕けるように狙っていたのだが、最後の一枚が想像以上に硬かったせいでギリギリになってしまった。まあちゃんと抜けたのだから問題はない。
振り返るとマチスとリリィが目に涙さえ浮かべて駆け寄ってきているところだった。直ぐに抱きかかえられて振り回された。
「凄い!凄いよハイディちゃん!」
「あ、ありがとうございます」
見守っていた生徒たちの興奮も最高潮で、三人はすっかり揉みくちゃにされてしまった。
ふと、測定前に上から目線で話しかけてきた男と目が合う。男は満面の笑みで親指を立てていた。小言でも言われるかと思ったがなかなか器の大きい男のようだ。気に入った。誰だかわからないけれど。




