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今までやってなかったけどやってみたらみんながやる理由がよくわかるね

 合宿二日目、今日は全員を二組に分けて森の中で狩りをする予定である。



 しかしその前に。

「よし、まずは獲物を見つけるために必要な探知魔術を教える。教える魔術は二つだ。まずは、打ち出した魔力の反射を使って探知する《アクティブサーチ》からやるぞ。詠唱は今朝配った紙の通りだ。やってみろ」


 紙に書かれていたのはかなり基本的な探知魔術の詠唱だった。魔王時代によく使っていた物よりはかなり原始的なので今更手こずるということもない。


(代り映えしない古臭い術式だな…まぁ、長年の歴史があって今の形に落ち着いてるこの手の魔術だとこんなものかね)


 難なくこなして他の新入生たちの様子を見ていた。皆何度目かの挑戦で成功していたようだ。


「もう一つは、周辺に残った生き物の痕跡を認識するための魔術だ。これは難しいぞ。《バッシブサーチ》の所に詠唱を乗せているが、検知できるかどうかは個人差が大きい。慣れればそれなりに使えるようになるが、精度はどうしても《アクティブサーチ》の方が上だ。ただしこちらから打ち込んだ魔力を感じた獲物が逃げたり襲い掛かってきたりする場合があるから、このあたりはうまく使い分けられるようになる必要がある」


 何やら長々と説明を受けたが、これも特段代わり映えしない魔術である。

 魔王と呼ばれるようになる少し前には単身魔獣が跋扈する未開の地を彷徨っていた時期があり、その頃にこの種の魔術は極めたと言っていい。現に今も、かなり離れたところにウサギらしき反応を感じている。


 暇になったハイディはおもしろ半分で探知したウサギに対して《アクティブサーチ》の魔術を試してみることにした。ただし、以前から構想は持っていたが試す機会がないまま塩漬けにされていた独自の術式だ。


「《アクティブサーチ》!」


 草むらめがけて探知魔術を飛ばす。

 想定ではミリ単位でどこに獲物がいるかを探知できるはずだった。実際それはうまく行って、前方百メートル程度の範囲にいる生物の反応をおおよそ拾えていると思う。


 ひとつ気になるのは、魔術の発動と同時にガサガサと不自然に揺れる気の音が聞こえたことだ。その割に飛び出してくる獣の姿はない。不思議に思ってこっそり遠隔地の様子を見るための《イーグルアイ》の魔術で様子を見ると、探知範囲にいた小動物たちが残らず気絶しているのが見えた。


(うーん、少し威力を込めすぎたか?狩り用としてはある意味これで正解ではあるが…)


 狩りで使う探知魔術の要点は、こちらが探知していることを相手側に悟られないようにすることである。そのため、魔力を撃ち込む《アクティブサーチ》よりも、周辺の状況を解析する《バッシブサーチ》の方が重宝されるのだ。ただし、ハイディのように適当に打ち込んだ探知魔術だけで獲物を昏倒させることができないのならば、だが。


 なんとなく大事になりそうな気がしたので何事もなく練習をしているようにみせかけようと考えたハイディだったが、一連の一部始終を見ていた人物がいた。ハイディの担当としてすぐそばで様子を見ていたミスクである。

 ハイディのところからは茂みの影になって見えていなかったが、ミスクからはハイディの詠唱と同時に気絶して茂みから転がり出てきたウサギが見えていた。


(なにあれ、ちょっとあり得なくない!?)


 《アクティブサーチ》は魔力を少し飛ばしてその反射を見て生物を探知する魔術である。飛ばす魔力は少しだけだ。魔術を使うと体の中から魔力が抜けるから、使う魔力は少なければ少ないほどいい。確かに少し詠唱をいじっていたようではあったが、その程度で小動物を気絶させるような威力が出るはずもない。


「ちょっと、ハイドランジアさん、今の何?」

「え、い、今の、とは?」

「ウサギが気絶しちゃってるんだけど」

「え、ああー、不思議ですね。詠唱を間違えたんですかね?」

 誤魔化してみようとするが、通じなかった。ミスクは何も言わなかったが目でわかる。


「ごめんなさい、ちょっと思いついたことがあったので詠唱を変更しました」

「別に責めているわけじゃないのよ。詠唱の変更なんて簡単にできることじゃないから、驚いただけ」

「失敗しましたけどね。魔力を節約できそうな気がしたんですが、逆にごっそり持って行かれました。もう少し考えて、上手く行ったらお教えしますね」


 別にごっそりどころか元の探知魔術より僅かに少ないぐらいだったのだが、威力が出すぎた言い訳のためにはそう言う事にしておいたほうがいいと思ったのだ。完成したら教えると言ったのは、これ以上つっこまれないように。完全に打算だけで喋っていた。


「そ、そう。お願いね」

 ミスクの方もその様子を忖度してそれ以上は聞かないことにした。彼女は空気が読める女性なのだ。




 探知魔術の練習が終わると、次は弓の練習だ。

 何十年ぶりかに手にした弓。木で作った、あまりにも弦も固くない初心者用のものだ。適当にビヨンビヨンやって具合を確かめてみる。


(うーん、十歳にして前の全盛期より筋力があるせいか随分軽いなあ)


 前はずっと机にかじりついていたせいで腕力体力ともにからっきしだったものだが。勇者と戦った時も魔術でガチガチに身体強化してそれでも殺されてしまったのだ。向こうは連戦に次ぐ連戦でフラフラだったというのに。


「大丈夫?弓固くない?」

「大丈夫みたいです。力はある方なので」

「うん、それぐらい引ければ問題なさそうね」


 矢を番えて正面の木を狙う。よく狙って、手を離した。


「おや?」

 足元に矢が落ちていた。おかしいな。


 もう一度。

「おや?」

 また足元に矢が落ちていた。


「先生、前に飛びません」

「そのうち飛ぶ」


 スパルタだった。とは言え、撃ち方はもう教わっているのだ。その通りに何回もやるしかない。


「お!」

 十分ぐらいしてどうにか前に飛ぶようになった。ヘロヘロだったが一歩前進だ。


「それだけできれば弓魔術が効くから試してみようか」

「はい」


 ミスクから受け取った紙には詠唱が二つ書かれていた。一つは矢を目標に誘導する《スナイプ》、もう一つは矢の速度を上げる《チャージ》。どちらも弓魔術の入門的なものだが末永く使える基本魔術だった。


「《スナイプ》!!……当たった!!?」

 自分でやっておきながら驚いてしまう。ヘロヘロの矢がヘロヘロながらも正面の木に当たったのだ。ものすごく不自然な軌道だったが。


「弓魔術、凄いですね」

「そ、そうね」


 誘導するとは言っても、初歩的なこの魔術はほんのちょっと軌道を補正する程度の効果だ。あさっての方向に飛び出した矢を無理やり捻じ曲げて命中させる程の効果はない。それはまた別の魔術なのだ。そんなミスクの驚きをハイディは気づきもしなかった。


(こりゃ勇者達の仲間にいた弓使いが動き回りながらボコスカ当ててくるわけだわ。ま、妨害魔術使ってやったら雑魚だったけどな!)


 何度か《スナイプ》を試すが、やはり面白いように木に中たる。だんだん楽しくなってきた。


「……あんまり魔術に頼ると、いざ魔術が使えない状況になったときに困るから気をつけてね」

「はい!」



 つぎの魔術を試そう。


(この手の威力補正魔術はかなり抑え気味にしとかないと大変なことになるんだよな)


 この体はかなりの魔術の威力が出てしまうのだ。感覚的には魔王時代よりも出ている。しかもその違いに慣れないせいか威力の調整が結構ガバガバだ。うっかり大型魔獣の頭を消し飛ばす、なんてことは魔王時代にもできなかった。


 嫌な予感がするので、慎重に限界近くまで使う魔力を絞り込んで詠唱した。


「《チャージスナイプ》!」


 キュルキュル、と今までにない音で飛び出した矢が離れた木の枝を撃ち抜いた。その瞬間、パン、と乾いた音がして枝が矢と一緒にはじけ飛んでいた。


「お!すごい威力ですね!」

「ちょっと待って?流石に色々おかしいよ?」

「え?」


 冷静に努めていたミスクだったが、今度は流石に看過できなかった。なにがおかしいかわからないハイディだったが、周りを見渡すと、他の人たちも目を点にして自分に注目していることに気付いた。


「今、何したの?」

「え?《チャージ》の魔術を全力で」

 正確には全力で手加減して、だが。


「いや、いやいや、違うじゃない?《スナイプ》も一緒に使ったじゃない?」

「それは、使わないと的に当たりませんから使うでしょう?」

「そこがおかしい。何さらっと多重詠唱しちゃってるの?」

「え、普通できるでしょう?」

「普通できないの!しかも何の魔術具も無しじゃない!?」


 多重詠唱は技術的には確立されている。しかしその習得は困難を極め、何十年にも及ぶ研鑽が必要なのだ。十歳やそこらでできることではない。詠唱の補助ができる魔術具を使うのならばまだしも。

 しかし基本的に他人に興味がなく、関わってきた人間が魔術師としてはかなり「できる」部類のカルマンやミラ、アンを始めとした討伐隊に選ばれるほどの手練ばかりだったハイディは、自分が苦労せず当たり前にできた事の難易度を過小に見積もる傾向があった。


「あと威力!元があんなにヘロヘロなのにあんなことにはならないから!結構太めの枝がバンッて吹き飛んだからね!?分かってる?」

 熱くなるミスクの背後で他の部員たちが首を思いっきり振って同意していた。見えていないが自分の背後でも同じだろう。


「そ、それは全力でやったので」

 明らかに白々しさが出てしまったが、ここは無理にでも押し通るしかないと謎の覚悟を決める。そのうちに何を言っても無駄だと悟ったのか皆口を閉ざした。


 いよいよ重苦しくなった雰囲気をなんとかしようと、部長であるジオが奮起する。


「おいおい、魔術が得意なのはわかったから加減を覚えような?あれじゃ折角の獲物が台無しだぞ!」

「は、はは」


 妙な空気のまま、乾いた笑いだけが森に響いただけだった。


たまにはこう分かりやすくすごいところを書いておかないとダメなんですよね

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