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鎧装真姫ゴッドグレイツ  作者: 靖乃椎子
《最終話 夢見る少女は眠らない》
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#77 君を待つ者

挿絵(By みてみん)

 このサナナギ・マコトには夢があった。


 正直言って全てをやり直したい。

 たぶん私はどうかしてた。

 行き急いでいたんだ。

 夢を叶えるのにきっと近道なんてないんだって。

 積み重ねが大事なんだってやっと気づいた。


 もう後悔しかない。


 とっても簡単だったんだよ。

 自分一人でどうにもならない時は誰かに相談すればいいんだよ。

 甘えたっていい、頼ったっていいんだ。


 見てないふりをしていたのかもしれない。

 私の周りには私のことを見守ってくれている人たちがいる。


 強がっていた。

 弱い自分は見せたくないって思ってた。

 一人で出来るんだってとこ見てほしかった。


 もしも最初からやり直せるならば。

 無かったことに出来るのなら。

 私は夢と真剣に向き合おうって誓う。


 もうズルはしない。

 正々堂々と夢を目指す。

 もちろん一人で抱え込まない。

 誰かの協力が欲しいときは素直にお願いする。

 皆と一緒に頑張って見せるよ。



 本当に?

 本当にそう思ってる?



 やり直して無かったことにしていいの?


 でも、そうしないと私の物語は終わってしまう。

 

 もしも……人生をやり直さず、私がもっと生き続けられたとしたら?


 そうなったらどうなる?


 どうなると思う?


 どうなるのかな?



 ◆◇◆◇◆



「……マコっちゃん!?」

 何かを掴もうとベッドから飛び起きたナカライ・ヨシカは窓から差し込む真っ赤な日の光の目が眩んだ。夢の中で大切な人が消えてしまうのではないかと悲しく不安な気持ちになり頬を涙が伝う。


「…………え? 黒っ……誰……いや何これ、痒い……」

 ふとヨシカはベッドの横に立て掛けられた鏡を見て驚く。

 金髪に染めていた髪の色が地毛の真っ黒になっている。触れるとブリーチのしすぎで痛んでいたのにサラサラしていて触り心地が良い。

 しかし重要なのはそこじゃない。

 はだけた患者衣の胸から覗く火傷の痕。よく見ると真ん中辺りに1センチ程の丸い傷、銃創が三ヶ所あった。


「えぇ……えぇっ?!」

 困惑するヨシカ。壁に掛けられたデジタル時計の日付は記憶していた日にちより十日も経っている。

 取り合えずベッドの下の紙袋にあった服に着替えて部屋を出る。

 ここはリターナーの医療病棟だった。前にマコトが倒れたときに見舞いで来たことがある建物だ。

 外に出ると夕陽が落ち、暗くなりかけていた。急ぐヨシカがまず向かったのは格納庫である。

 十日も仕事をサボって父親に怒られるのではないかと少し心配だった。


「いない?」

 ドアを開けて中を覗くと格納庫は明かりもなく静まり返っていた。人の気配は感じられず、作業機械の電源も全てオフになっている。何より異様なのはSVが一機も無いことだった。


「……何してるの」

「わぁっ!? 何だウサミンさんか」

 驚き振り返ると、そこに居たのはリターナーの司令ゼナス・ドラグストの妻であり児童福祉施設史上初のサイボーグ園長であるウサミ・ココロだ。


「この子のがね、どうしてもSVが見たいって言うものだから連れてきたんだけど……ありゃあモヌケの殻だわ、マモリちゃん?」

 ウサミは自分の背に隠れる幼い少女に向けて言った。少女はウサミの足からキョロキョロと格納庫を一頻り覗き、つまらなそうな顔をしてまたウサミの背中に隠れてしまった。


「居た! 君、探したよ! こんなところにいたのか」

 小走りで手を振りながら現れたのはゼナス・ドラグストだ。


「起きたんだね。体は大丈夫?」

「う、うん問題ないけど。それにしてもこの静まりよう、他の皆はどこ行ったん? 何でSVが無いの?」

「あぁ……そうか、眠っていて知らないのは当然だな。ココロさん、ニュース見せられる」

「もう、久しぶりの再会、最愛の妻をスマホ扱いしないでよね!?」

 しかしゼナスの言うことにウサミは従い、両手からホログラム映像を投影してニュース記事をヨシカに見せる。


【国際SV法、規制強化。日本国内での使用を全面的に禁止へ】


 衝撃的な見出し、その内容に整備士であるヨシカは状況を察して言葉を失った。


 ここ十年近くに起きた数々のSVによる事件の急増。その多くが大規模な戦闘行為による都市の破壊。死者、行方不明者の数は数百万人にも及ぶ未曾有の問題。

 SV発祥国の日本だからこそ他国の見本となる振る舞いを行わなければならないというのに、この体たらくだ。


 他にも記事には辛辣な文書が書き連ね、ヨシカは最後まで読むのをためらった。


「嫌な話よね。それじゃ機械の体をしたココロはどうなるってのよ!」

 人工皮膚の頬を膨らませてウサミは記事映像に指で落書きをする。


「と言うわけだ。ナカライ君、さっそく荷物を纏めて欲しい」

「つまり、私らはもう……お払い箱ってことですか?」

「まあ、そう焦らないで。あくまで日本での活動がやりにくくなったというだけさ。君たちを首にする訳じゃないよ」

 ゼナスは安心させるように微笑むと、濃紺の空に浮かぶ月を指差す。


「あれが新しい会社さ。君の父上も含めて他の整備士たちもそこにいる、むろん彼女も。一緒に来て欲しい」

「……あーあ、妻の目の前でナンパですか?」

「ん? ナン……パ? 何を言ってるんだいココロさん?」


 急ぎ身支度を整えたヨシカたちは、リターナーの基地内にあるスペースシャトルの発射台に移動した。


「ほらマモリちゃん、パパに行ってらっしゃいは?」

「…………しゃい……」

 搭乗ゲートまで見送りに来たウサミたち。まだ何か誤解しているのかウサミはポケットから写真を取り出しゼナスに渡す。

 結婚式の時に撮ったウサミとゼナスのツーショット写真だ。


「魔が差しそう時はこれを見て思い出すこと」

「わかった、行ってくるよ」

 周りにヨシカやシャトルの添乗員が見ている面前でウサミとゼナスは熱いキスを交わした。

 ヨシカは思った。


(私、もっと筋肉のある人がタイプなんだけどな……)



 ◇◆◇◆◇



 六時間後。

 ヨシカとゼナスを乗せたシャトルは人類第二の故郷となる星、月へ到着する。

 一際、大きなクレーターに覆い被さるように作られたドーム状の建物。

 ここは日本のSVメーカー、トヨトミインダストリーの月面支社であり、中にはリターナーの新たなベースとなる基地が建築中だ。


「ごきげんよう、遠路はるばる月へようこそ」

 シャトルを降りると出迎えてくれたのは左右に屈強なSPに従えたスーツ姿の女性。トヨトミインダストリーの社長オダ・リュウカだ。


「相変わらずお美しいですね社長」

「誉めても何も出ませんわ。そんなこと言うと奥様に怒られるのではなくて?」

 微笑むリュウカ。歳は三十代半ばだが見た目は十代の少女のように若く、嫌みのない気品に溢れた人だ。


「さっそくですが社長。彼女を例の場所へ連れていきたい」

「わかりましたわ、案内しましょう……あとはゼナスさんが付いていますので貴方たちは外れて頂戴」

 リュウカが言うとSPたちは頭を下げて立ち去っていった。


「さぁこちらへ」

「この先は一部の人間しか入れない。他言無用で頼むよヨシカ君」

「は……はぁ」

 関係者専用入口から通路を進み、指紋と網膜の認証とカードキーを使った扉を三つ四つ開けた先のエレベーターで地下へと潜る三人。

 長い沈黙の中、最下層へ辿り着いたヨシカが目にしたのは変わり果てた《ゴッドグレイツ》の姿だった。


「これは……マコっ……ちゃんなの?」

 拘束具によって厳重に縛られた《ゴーイデア》の白い装甲を有するサナナギ・マコトの顔をした《ゴッドグレイツ》はヨシカを静かに見つめる。言葉を失い、暫し呆然とするヨシカだったが《ゴッドグレイツ》は何も言葉を発しない。


『彼女の意識は今、不安定な状況にあります』

 声の方に振り向くヨシカ。そこに立っていたのは体から淡い光を放つクロス・トウコだ。


「あんた、生きてたの?」

『生きているけど、肉体はもうありません。貴方にあげましたからね』

 トウコはヨシカに触れようとするが、その手は体を通り抜けてしまう。


『マコトちゃんが貴方を助けたいと願った。だから《ジーオッド》の中に僅ながら残された私の体をあげたんです』

「はぁ? 何言ってんの?! わけわかんない!?」

『胸の傷はマコトちゃんが治した貴方の傷ですけど、髪の毛とかは私のですからね。本当なら《ゴーイデア》の方を使って復活させようと思っていたのに、彼女……マモリさんにはまだ強い意思がありましたからねぇ残念です』

 トウコはわざとらしく言ってみせた。


『だからこそマモリさんを失った《ゴーイデア》に私が働きかけて、マコトちゃんを元に戻そうとしているのですが……簡単にいかなくて』

「我がトヨトミインダストリーも様々な技術を使ってサナナギさんの復活を試みているのですが今だ解決策が見いだせないのですわ。統連政府の邪魔を入って……難航していますわ」

 リュウカ社長も落胆の声を上げる。例の政策によってSV産業の最大手であるトヨトミインダストリーも日本での運営を自粛せざるを得なかった。前々から月に建てていた新社屋に活動を移したが政府によって厳しく目をつけられている状態だ。


「……そう言えばガイ君は? ガイ君もゴッドグレイツの中に?」

『彼は生きてます。ですか……』

「自分の力でサナナギ君を助け出す、と言って出ていったきり消息不明だよ。全く勝手なヤツだ。こんなときに側にいないでどうする」

 拳を握り締めてゼナスは静かに怒る。


『彼には彼なりの考えがあるんだと思います。ですが、ずっと待ってるわけにはまいりません。私たちで救うんです……私の意識もいずれ消えるでしょう、その前に』

 実態のない存在になってもマコトへの思いは固く、強く決意するトウコだった。


「リターナーは皆の帰る場所だ。サナナギ君が戻ってくるまで統連政府には潰させない。我らの力は正しいことに使う」

 レディムーンことツキカゲ・ルリからリターナーを引き継いだゼナス。彼女やガラン・ドウマのように自分勝手な思想や私怨で組織を動かすことは絶対にしない、と心の中で誓う。


「私だって……やれることは無いかもだけど、マコっちゃんに救って貰った命だもん。精一杯生きなきゃ救われ損だもんね。整備士としてやれることをやるよ」

「ナカライさん、いつでもここに来られるようにIDを作成しておきますわ。その方がサナナギさんも寂しくはないでしょう」

「ありがとうございます、オダ社長さん!」

 リュウカに感謝するヨシカ。


 ヨシカが直接的にマコトへ何かしてやれることはないのかもしれない。

 それは他の人も含めて、例え祈るだけしか出来なかったとしても。

 

 皆がマコトの帰りを待っていた。



 ◆◇◆◇◆



 そして、時は流れる。

 西暦──。

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