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鎧装真姫ゴッドグレイツ  作者: 靖乃椎子
《第九話 ファザー・コンプレックス》
53/78

#53 マコトは空を飛びたかった

 ──誰かに頼るんじゃなく自分で考えて行動しよう。



「やれる、やるんだ、やらなきゃいけないんだ……!」

『サナナギ君、無茶だ! 一体だけて敵う相手ではない。下がりたまえ!』



 ──一度決めた決めたことから逃げない。



「……もっと、ゴッドグレイツ! もっと燃え上がれっ!!」

『炎で地面が……これでは近づけないか!?』

「まだ、全然足りない……こんなものではないでしょ?!」



 ──とにかく行動、後ろは振り返らず前へ進んでいくのみ。



『ちぃ……ウサミさん、残りのドールフェアリー三番四番も射出! サナナギ君を守ってやってくれ!』

『ダメ、この距離じゃ間に合わないよ?!』



 ──努力すれば報われる。パイロットの夢を必ず叶えるんだ。



『ゼナスちゃん近付きすぎ! こっちも危ないって!』

『しかし……早く下がれサナナギ君! 踏み潰されるぞッ!!』



 ──父さんみたいなヒーローに私もなってみせる!



「やっぱり合体しない無理なの、クソ…………この……バケモノがぁっ!」



 ──違う、そうじゃないでしょ?



 ◆◇◆◇◆



 どこまでも果てしなく続いている光の道をマコトは進む。

 それはマコトが望んだ未来への道筋だ。


「マコト」

 目の前を赤い縁の眼鏡を掛けた男が立ち塞がる。

挿絵(By みてみん)

 おぼろ気な遠い記憶の果てに存在した彼の姿にマコトは不思議と涙が溢れ返った。


「大きくなったな」

「お、お父……さん……本当にお父さん……なの?」

 駆け寄るマコトの頭を父は撫でる。マコトは嬉しさのあまり父へと抱きついた。


「マコトのことは父さんが絶対に守ってやる。悪い奴は全部やっつけてやるから心配するな」

 優しくて暖かい父の胸に抱き締められ、懐かしい感覚に安心した表情を浮かべるマコト。

 しかし、何故か直ぐに父を突き飛ばして離れた。


「どうしたマコト?」

「……私、お父さんのようになりたかった」

「そう言ってくれたな。パイロットになって皆を守るヒーローに」

「違う!」

 マコトは父の言葉を否定する。


「お父さんは戦うSV乗りなんかじゃない……アクロバット飛行チームなんだって本当はわかってた。私が友達に自慢したかったから、ずっと嘘をついてただけなんだ」

 誰にも言えなかった本心を吐露するマコト。溢れ出る涙を拭い笑顔で父と向き合う。


「けど、パイロットになりたいのは本当なんだよ。私は……私は、お父さんと一緒に空を飛びたかった。それだけなんだ…………だからっ」

 マコトの言葉が遮られる。目の前にいる父の姿が大きく、不気味に見えた。その顔面には影がかかり、赤色と青色の両目が怪しく光りマコトを見つめていた。


「……マ……コ……ト……」

 異形の姿に変わってしまった父の巨腕がマコトの首を掴み、締め上げられる。

 驚きも苦悶の表情を浮かべ、声も出せないマコトは必死に抵抗するも、万力のような力で食い込む指を剥がすことは出来なかった。

 遠退く意識の中で父は語りかける。


「戦え」



 ◇◆◇◆◇



 町中でバイクを掻っ払い、車一台も走っていないハイウェイを全速力で飛ばすガイ。近付けば近付くほどに嫌な予感の胸騒ぎが収まらなくて気分が悪い。


「何をやってんだよ、マコトは?!」

 アクセルを握り絞める力が強くなるほど胸騒ぎの現況との距離の差は縮まる。

 出会いは一瞬だった。


「な、なんだぁっ!?」

 道路横を飛行する四枚の燃えさかった翼を携える真紅の兜の巨人とすれ違う。

挿絵(By みてみん)

「マコト……オボロでもない…………本性を現したか」

 ガイは直ぐ様、急ブレーキを掛けながらバイクを大きくターンして通り過ぎてしまった巨人を追いかける。そんなガイの後方に遅れてやって来たのはゼナスとウサミの青騎士型の《オンディーナ》だ。。

 

『ねぇ何なの気持ち悪い奴!? 赤いのが怪物と合体しちゃったのゼナスちゃん?!』

『あれは合体というより……食ってしまった、という方が正しいかもしれません。とにかく追わないと』

 両肩シールドの〈ドールフェアリー〉からブースターを点火させて飛ぶ《オンディーナ》は速度を上げる。そこへ打ち捨てられたキャリアカーをジャンプ台にして、ガイのバイクが目の前を飛び込んできた。


『ゼナスちゃん前っ?!』

 何がなんだかはわからないまま《オンディーナ》はガイとバイクをキャッチする。


『君は……き、貴様っ何故こんなところに居る!?』

「ナイスキャッチだな金髪」

『私の名はゼナス・ドラグストだ!』

「そんなことはいい。俺をゴッドグレイツのところまで運べ」

『何を勝手なことを言っている?! このまま落とすぞ貴様!?』

 そう言って《オンディーナ》はバイクの先を摘まんで宙吊り状態にする。足でシートを挟んでガイは耐えるが、ゼナスが本気で離してしまうほど嫌な奴ではないと心を読み取り余裕の表情をする。


『止めなよゼナスちゃん、可哀想じゃない?』

「……奇妙なのを連れているな。そうか、あの時の女か……」

 機械の体を持つウサミを透視して、港での戦いを思い出したガイ。


「とにかく早く行け。どんどん離れていくぞ」

『言われなくともそうする!』

 タクシー代わりにされてゼナスはイライラするも、ガイとバイクを左腕に抱えて《オンディーナ》は全力で飛ばしていく。


(しかし、どうする? 中のマコトとオボロは……いや、待て…………これは誰なんだ?)

 ものの数分で眼前に捉えたそれは《ゴッドグレイツ》の頭部を被った文字通り人をしていた。なだらか四肢に皮膚は幾層にも重なった蛇腹模様、燃え盛る四枚羽根が熱気で空間を歪めた。

挿絵(By みてみん)

『とにかく赤兜の動きを止める。なんとかコアを破壊せねば……一旦下ろすぞ』

 ゼナスはガイとバイクを道路に置いて、背を向ける《巨人ゴッドグレイツ》へ飛んだ。


『後ろがガラ空きだ!』

 電撃を帯びた大槍を構えて《オンディーナ》は突撃。すると《巨人ゴッドグレイツ》の首が180度回って後ろを向きだし、炎の羽根から火球が連続して発射された。

 とっさに《オンディーナ》の跪から〈ドールフェアリー〉が射出され防御に出た。発生された電磁シールドが火球を防ぐ。


『そんなに持たないよ?!』

『こいつ死角がないのか……!?』

 逃げる《オンディーナ》を火球が襲う。ずっと飛行ばかりしていた為にエネルギー残両も余裕はあまりない。建物に隠れてやり過ごそうとするも《巨人ゴッドグレイツ》の火球には意味はなく、一撃で燃やし溶かされた。


『あぁ、フェアリー2と3がやられた!?』

『防御はもういいです。ウサミさん、攻めますよ!』

 一か八か、大槍を捨てて火球の雨を掻い潜りながら《オンディーナ》は駆け抜けた。

 軽い高周波ブレードに持ち変えて《巨人ゴッドグレイツ》の正面に飛び込む。素早く正確に胸部装甲の隙間に刃を差し入れて振り下ろすと中の弱点の赤いコアが露出した。


『もう一撃……っ!』

 左腕の装甲がスライドし現れた銃砲を突っ込み、ありったけの弾丸を叩き込む。


『やったよ、ゼナスちゃん!』

 しかし《巨人ゴッドグレイツ》は止まらなかった。コアを粉々に砕いたたはずなのに動き始める《巨人ゴッドグレイツ》が《オンディーナ》を体から引き剥がし地面に叩きつけた。

 ぽっかりと穴の空いた腹部を押さえ《巨人ゴッドグレイツ》の咆哮が木霊した。

 痛みを感じているのか、八つ当たりをするように腕を振り乱し周りの建造物を破壊していく。


『…………こ、ココロさん。大丈夫ですか?』

『手ガ取れちゃったワ』

「おーい、生きてるか?!」

 ボロボロの《オンディーナ》が突っ伏すクレーターをガイが覗き込む。


「なんて様だよ」

『うるさい……くそ、バランサーがイカれた』

 立ち上がろうと《オンディーナ》は動くも、間接から異音がして崩れるように倒れてしまった。


「なぁ、さっきの肩から飛ばした小さい変な飛行機は動くのか?」

 近くに駆け寄ったガイは《オンディーナ》を眺めて言う。


『フェアリーのこト? うーン……4号ちゃんはギリギリダイジョブみたイね』

 故障した声でウサミは言いながら《オンディーナ》は右足を上げる。センサーの瞳が光り、羽根の開閉も問題はなかった。


「じゃあ、それに俺を乗せてゴッドグレイツまで飛ばせ。直接、あいつに乗り込んで止める」

「なっ……お前、正気なのか?! 自殺行為だぞ!?」

 驚くゼナスは《オンディーナ》から降りてガイに詰め寄った。


「俺は死ぬつもりなんてない。必ずアイツを助ける……それだけだ」

「しかしだ」

『いいジャないのゼナスちゃン。ココロは協力するワ』

「ウサミさん!?」

『ソれにさぁフェアリーを動かスのはココロなんだけド? だかラ黙ってなさイ』

 ウサミは外れた左手をゼナスの頭に投げつける。


「ありがとな、アンタいい奴だ」

『エヘヘ……いいってことヨ』

 巨人の慟哭を聞きながらガイは曇天の空を睨んだ。


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